11/ 7(水)

 Paris

 さて、とうとうパリである。6日の分も実は今書いたばかりである。失って初めて分かる有難さ、今回は物価の安さである。しかし、急ぎ過ぎたようだ。とにかく、起きると列車は(Couchetだから電車ではない)当然のことながら、フランスを走っている。見て気付くのは、まず寒いこと。時間が経っても霜がずっと降りたまま。それから、とにかく平べったい。平野という言葉を思い出す。

 列車は10時30分にオーステルリッツに着く。この際どこか探してもらおうと駅のHotel Informationにたどり着く。が、一番安いのが190Fと聞かされ、いきなりショックを受ける。

 とは言え、1泊7000円位なら良いかと思っていたので、216F (シャワー、朝食付き)でOKする。宿は東駅近くの安宿。部屋は一応きれいでほっとするが、6階(日本でいうところの7階)でエレベーターがないのには参った。いわゆる屋根裏部屋という奴である(但し部屋は広い)。

 シャワーを浴び、ヒゲをそり、服を替えて、何とか「人間」に戻ってから、とりあえず何か食べることにするが、食事をすると3000円というのが本当であったことを知り、さすがにあぜんとする 。なるほど「目玉が飛び出る」価格である。中華で一番安い定食を頼むが、vinと合わせて(安ワインはスペインの方がずっと良い)50F=1500円弱、マドリッドの2〜3倍である 。

 とにかく、日本より高いので、たまったものじゃない。この街の人はどうしてこんな価格で暮していられるのだろうか。レートがおかしいのか、やはりパリが高いのか、とにかく、バックパッカーが2日で逃げだす街だというのがよく分かる。

 少し土地勘を付けるべく、フラフラ歩くことにする。ルーブルの少し東辺りから、ずっと西に行き、いつしか道をオペラ座の通りに間違えたらしく、正面にオペラ座が見えてくる。

 しかし、この通りは「ブレードランナー」以上に日本語があふれていて、恐い。「免税店」という字がいくつあることやら。確かにこの辺歩いていると日本人ばかりである。 しかも、信じ難いほど物価が高いことを考えると、ここにいることが何だか嫌になり、足腰がくじけそうな気になる。うんざりだ。

 「東京物語」の「東京には人が多すぎる」というセリフが正しいのかはよく分からないが(だって30年前の映画)、「パリには日本人が多すぎる」と言えば絶対正しい。そういうお前もと言われそうだが、私もさっさと帰って、日本人人口を減らしたい。

 コンコルド広場であの棒を見て、正面のがいせん門へ向かってシャンゼリゼ通りを歩くが(つまんない通り)、なかなか着かない。後で地図を見たら3q位あった。門の上へ登り、エッフェル塔の下まで行ってから(但し、 上るのは別の日にすることにした)、帰途についた。エッフェル塔というと、「ナディア」を思い出す。まぁ「ホムンクルス」なんてスチームパンクを読んでいたせいかもしれないが、しかし、今のパリにはジュール・ベルヌ的雰囲気はどこにもない。

 帰って、近くの店でパンとパテを買い、部屋で食べる。全体に余り安くはないが(カマンベールの値段が日本の1/2位なのは、なるほど、と思ったが)、パテはさすがにおいしいし、1回1000円(35F)もあれば充分だろう。これなら何とか生きていけるかと思う。

 しかし、余り長くいても、全然面白くないだろう。2日帰るのを早くしちゃおうか(勿論、可能なら)と今真剣に考えているところである。

 


・ 190F …当時、1フランは28円位。グラナダ辺りでの1泊1,700円が、いきなり最低でも1泊5,000円になって大ショックを受けた。
・「ナディア」 …「不思議の海のナディア」。確か、この年の放映。友人に録画を頼んで、旅行に行った記憶が。実際にはバレーか何かで中断しており、帰ったときもほとんど進んでいなかった。ちなみに、当の「ナディア」にもジュール・ベルヌ的雰囲気はあんまり無い。


写真:  Paris


翌日
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