ブラーニー城、ロック・オブ・キャシェル、再びダブリン
アイルランド内のバス移動も、今日でお終い。明日はもう帰るだけ。今日は途中、2カ所の観光ポイントに寄るとはいえ、実質はダブリンへ戻るための行程で、終結ムードが漂う。空は晴れている。既に秋の空のような透明さ。
車内での、添乗員による豆知識から。紅茶を世界で一番飲むのは実はアイルランド人であるとのこと。イギリス人は年間1500杯で、アイルランド人は年間1600杯らしい。有名なのは、BureysとかLionとかBarysとか。ホテルの部屋に置かれているティーバッグはBureysだった。とにかく色が濃く出る。コンビニで買った紅茶もそう。
最初の目的地、ブラニー城に到着。他にあるのと大して違わない廃城があるだけ、と言っても良いようなところなのだが、ここはアイルランド人に最も人気のある観光地らしい。その秘密は、ブラーニーストーンの伝説。と書くと80年代のアイドル映画の タイトルみたいだけど。ここの屋上にある石にキスをした者は雄弁になれる、という19世紀の詩があって、ここに来た者は皆「雄弁」になるべく、その石にキスをするのが慣例となっているのだ。
アイルランドは言葉の国。「雄弁」は誰でも欲しいスキルらしい。そんなわけで、屋上までの階段(城の中で、螺旋を描く石段)に、入り口まで列が出来ていることもある、と脅されていたが、幸い、それほど混んではいなかった。
ところで、このキスだが、普通の姿勢ではなく、後ろ向きに行う必要がある、というのがポイント。しかも、石は、壁面の、屋上よりやや低い場所に付いているので、エビ反りハイジャンプな姿勢でないとキス出来ない。そんなん出来るか、と普通、思うが、心配ご無用。体操の姿勢補助員みたいな人が横にいて、石のところまで、ひょいっと体を寄せてくれるのだ。で、その瞬間をカメラマンの人がパチリ。ひょいっ、パチリ。ひょいっ、パチリ。見ていると、完全に流れ作業である。
で、出口の前に、 写真受付があって、カメラマンから渡される番号を書いてお金を払うと、キスした瞬間の証明写真?を後日、Airmailで郵送してくれるという仕組みになっている。
順番を待って、石にキスをする(というか、させられる)。よし、(内気な)私も、これで、もう雄弁だっ。
…勇気を呉れる、というのでわざわざ訪ねて行ったのに、「君は既に勇気を持っている」とか、大王に皆が巧いこと言いくるめられる「オズの魔法使い」のエピソードを何となく思い出さないでもないが、気にしないことにする。写真については、持っていても、その意味を理解してくれる人は日本にはいなさそうなので、買うのは止める。
駐車場の隣にある、アイルランドで最大級の土産物センターで、少しだけ土産物探し。時間があれば、色々探したいところだが、20分くらいしか余裕がなかったので、職場へのお土産用のチョコと、シャムロックのお守りだけ、とりあえず購入。
シャムロックのお守りは、そこらで葉を摘んできて、幸運を祈る言葉を印刷した紙と一緒にパウチしただけの、原価数円としか思えない代物だが、値段も180円くらいだし、まぁ、自分用の記念には良いかと。基本的に、土産物を買う習慣は私にはないので。…あ、そういえば、今回はセーターを買ったんだった。
再び、 バスでアイルランド横断の旅。途中のMichael Townという街で、Mary Blackが今度、Free Open Concertを開くとの看板が目に入る。おおっ、 凄い。日本で言えば往時のユーミンとかそういうアーティストが開く無料コンサート。
車窓の景色を見ていて、この国には、エメラルドアイランドという言葉になるほど相応しいと思う。 大半が牧草なので、日本的な意味での「緑豊かな」というのとは少し違うが、それでも綺麗な風景であるのは確か。
昼食。マッシュルームスープ、鱈のフライ。巨大なアップルパイ。今回もパイを半分に切って残しながら、何がカロリーが高いかということについて、同席のおばさんたちと会話。 低インシュリンダイエットとか。
あの爺さんが、こうやって食べ物を残せるのも旅行の時だけで、家では、出てきたものを少しでも残したりしたら大変なことになる、と口を挟む。そして「食べ物を残した時から、人生の厳しさが始まる」としみじみと語る。何じゃ、そら。でも、この爺さんが言ったことの中では、初めて記録するに値する言葉かも知れないと思った(ので、書いてみた)。
昼食を食べたところから程なく、 ロック・オブ・キャシェルへ。今日2番目の、そしてこの旅行最後の観光ポイント。キャシェルとは元々、岩の意。だから、岩にある岩、みたいな言い方で、ちょっとおかしい。
しかし、見た目は確かに、岩山の上に大きな岩の固まりが載っかっている感じ。rock on rockだ。載っているのは、教会(の廃墟)。ここは 元々、王の城だったのだが、聖パトリックが王を洗礼し、以後、カトリックの聖地となった場所。そんなわけで、ロマネスク教会(の廃墟)とゴシック教会 (の廃墟)が隣り合って建っている。
ここで見られるアイリッシュ・ロマネスクは、実はカタルーニャ・ロマネスクと共通点が多い、との添乗員の専門的な説明。カタルーニャ・ロマネスクは、人よりは多少、見ているはずなのだけど、余り関心が無かったせいか、よく覚えていないなぁ。プラドに 展示されていた木の板に描かれたキリスト像とかくらい? バルセロナでは、カタルーニャ・ロマネスク専門の美術館に行かなかったし。と今、後悔しても遅いのだけど。
人頭をずらりと並べたアーチとかは、ケルトの影響を受けたアイルランド独特のものなのでは?と添乗員に聞いてみたが、カタルーニャ・ロマネスクにもあるとのことで、むしろギザギザ模様の方が独特だとか、そんな話も。
添乗員の知識の量というのは、結構、凄いものがあるような。どこの国に行っても、同じように喋るわけだし。まぁ、ここまで突っ込んだ話をするのは、この会社の人ぐらいなのかもしれないけど。
ところで、 こちらで驚いたのは、史跡である、こういう観光地の敷地内に今も墓が作られていること。地面にそのままプレートが埋めてあるので、観光客は墓石を踏みながら歩くことに。例えば 、ここにも1998年の墓が作られていたりする。土葬、なんだろうか。起きあがってきそうで(何が?)、ちょっと嫌。
6時頃、ダブリンに到着。 ダブリンでの泊まりは、グレシャムホテルという、オコンネルストリートに面している由緒あるホテル。ロビーは混んでいて、なかなかチェックインが終わらない。 その間の暇つぶしに、ホテル内のホールの案内を見ていると、それぞれにアイルランドの作家名が振られていて、感心する。スイフトとかベケットとかジョイスとか。ここは文学の国なのだと改めて思う。日本だと、普通、花の名前か。芙蓉の間とか。鴎外とか谷崎とかいう名のホールがあるホテルなど、どうにも考え難い。山の上ホテル…にも、ないだろうな、やっぱり。
それにしても、えらく近代的なロビーで、ちょっと興ざめ。映画「マイケルコリンズ」に出てきたのは、風情のあるロビーで良かっただけに。あれはセットだったのだろうか? まぁ、80年前の話だし、改装していて当然な気もするけど。
しかし、単純に近代的ということでいえば、最初のホテル、ジュリーズ(ホテルチェーンなので、ダブリンの、ということだが)の方がゴージャスだった。向こうは5つ星で、こちらは4つ星だから 、仕方ないのかもしれないけど。グレシャムホテルは最高級ホテルという思いこみがあっただけに、少し裏切られた気分。
そんなことを考えつつ、自分の部屋のドアを開くと…わっ、ベッドが3つも。普段はツインを使用しているけど、3つというのは、初めて。豪華といえば豪華? でも、ベッドは一度に1つしか使えないわけで、3つあっても仕方ないんですが。 たまたま予備のベッドが置かれた部屋だった、というだけなのだろうけど。トイレットペーパーのロール受けも2つ。これも2つあっても仕方ないよなぁ。有って困るわけではないけど。
夕食は、ホテル内のレストランで。カルボナーラのスパゲッティ、ラムのステーキ。アイスクリーム。ステーキなので、いつものビールは止めて、赤ワインにしてみたが、ここのギネスの注 ぎ方は、さすがに上手かったとのことで、選択を少し後悔する。
夜、リフィー河を見に、外に出掛ける。リフィー河は、水が黒いとのことだが、夜なので、よく分からず。
それにしても、実際の「ダブリン市民」とは、せっかちな住人である、というのが私の感想。信号がCountdown式になっている辺りからして、既に短気な性格だと思うが、その信号を、しかも全然守らない。東京よりは絶対、大阪に近いと思う。街並も実用性が優先するというか、気取りはないけど、決して綺麗でない辺りもよく似ている(と書くと、反論のある方もいるとは思うが)。
観光地として訪問したら、幻滅してもおかしくない街かも。暮らすのには良いかもしれないが。ああ、でも、お金のある人は、郊外に家を移しているとかそういう話も聞いたような。
適当なパブを探して、うろうろ。何となく入ったところは、リフィー川沿いで、奥がディスコスペースになっていた。 隣はホテルのロビー。というか、ホテルの1Fがパブになっているというべきか。喉が乾いたので、ギネスではなく、ラガービールのキルケニーを注文。ディスコで流している曲は80年代のロックが中心で、妙にのどかな雰囲気。
この際、ここで踊っている人の中に混じって、変な外国人として弾けてみることに。
…するというのも、最後の夜らしいバカバカしさがあって、良いかと一瞬思ったが、自分のパーソナリティとの乖離に、疑問を感じたので、止めておく。
ホテルに戻る前、すぐ近くのパブで、ギネスを飲む。こちらでの最後のギネスだが、喉が渇いていないせいか、残念ながらイマイチだった。
ホテルでTVを付ける。Sky Newsは、少女失踪事件に関して、ここ数日、識者のコメントばかり流していたが、今日は警察が、捜査活動の一環として再現してみせたらしい、赤い服を着た2人の少女が連れだって歩いていく場面が 繰り返し流されていた。 擬似的に再現された「失踪する少女達の映像」。ふと、デビッド・リンチみたいだ、と思った。