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アムステルダム←→ハーグ

 ホテルの朝食。大きくないホテルだし、並んでいる食品に特色はないが、チーズやバターは、さすがに美味しい気がする。「僕らは乳製品で出来ている」というコピーが、何故か浮かぶ。

 駅へのトラムで、回数券の必要枚数を確認しようとするが、今日は車掌が乗っていなかった。2枚に違いないと自分でスタンプを押す。 オランダ国内の大半の美術館が一年間無料になる「museumkaart」はVVVでも買えるとガイドブックに書いてあるので、駅前のVVVで買おうとすると、 (買えるのは)美術館だけだと言われる。小さい写真が必要だとも。…写真なんか持ってこなかったよ。

 気を取り直して、駅でまずはベネルクスツアーレイルパスのvalidateをして貰おうと、国内線窓口にパスを出すと、上のホームの国際線窓口だと言われる。

 行ってみると、国際線窓口は混み合っていて、順番待ち。皆、複雑な注文を出しているのか、 それとも無理難題を要求しているのか、時間の掛かる客ばかりで、自分の番号がなかなか表示されない。こっちは日付のスタンプをポンと押して貰うだけなのに… 行くつもりだった電車にも間に合いそうもない。まぁ、30分に1本出ているのだし、焦るのは止めようと思っていると、電車が出て行った1分後に呼ばれる。ううっ。

 次の電車を駅の時刻表で探す。ハーグは駅が幾つか有るので、注意してcentral駅に向かう方を選ぶ。

 電車に乗る。昨日のスキポール空港、そのさらに先が、ライデン、そしてハーグという経路。昨日の疑問がようやく解ける。あれは折り返し運転の目的地の表示が先に出ていたものらしい。

 窓から風景を眺めていると、木々はあるものの、ひたすら凹凸のない土地。なるほど、こういう土地の「風景画」なら、その8割以上が空を占めることになるのも当然だ、と納得する。

 車中、もし美術館でmuseumkaartを作るために写真の提出を要求されたら、携帯している「パスポートのコピー」というのはどうだろう、とふと思い付く。 ただし、万が一、パスポートを無くした時には困るかも。どうしたものか。

 50分後、ハーグ(セントラル)駅に到着。思っていた以上に現代的な建物に驚く。駅前のVVVで、「パノラマメスダフ」と市立近代美術館への行き方を訊き、トラムの番線と停留所を紙に書いて貰う。

 とはいえ、最初に目指すのは、勿論、マウリッツハイス美術館。駅から歩いていくと、数分で辿り着く。半地下の入り口から入り、museumkaartを、と言うと、簡単に作って貰える。25Euro。写真など不要だった。やや、拍子抜け。

 

 美術館は、狭いながらも住み心地の良い貴族の館という感じ(私は貴族じゃないので、実際はよく分からないが)。3階の広間にドンと置かれているポッターの「牛」 は、確かに迫力。フロマンタンが、褒めているような貶しているような?文章を長々書いているだけのことはある。

 ここは、フェルメールで世界的に知られているコレクションだが、レンブラントだけでも2部屋有る充実振り。特にレンブラントはあの老自画像(確か、生涯最後の自画像)に惹き付けられた。あの 右目(ということは 実際には左目?)の視線の力。ところで、レンブラントの自画像を見る度に、手塚治虫を思い出すのは私だけでしょうか? 本人というより、「火の鳥」の猿田彦なんだけど。あの鼻のせい?

 フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」。

 被写体と非常にパーソナルな関係があるかのような幻想を抱かせる絵画。前にTV東京の「美の巨人」で取り上げた時は、ここの学芸員を主人公にした妙なドラマと共に語っていたが、その手のことをつい言いたくなる作品であるというのは分かる。

 実際にはトローネーの一種で、肖像画ではないのだろうけど、スタジオでのグラビア写真みたいな、ある種の生々しさにハッとする。聖ではなく俗世界だけど、バランスがあやうく取れているので、 上品さが保たれているという感じ。

 口を開き掛けた瞬間の魅力。瞬間にして永遠。

 どこから見てもこちらを見ているような眼差し、というのは、龍の天井画でよく言われる、八方睨みと同じ? 日本人ガイドが来た時は、その手の台詞を口にしたりするのだろうか。「ええ、従って、八方睨みの少女、とも言われています」 …言われてないって。

 なかなか視線を離し難いが、向かい側の「デルフトの眺望」こそが、ここの至宝。確かに四角い。一見、地味だが、いつまで見ていても見飽きることがない。 言ってみればごく平凡な風景が、どうして、ここまで惹き付けるのだろう。

 (見ている者の思惑はともかく)「明日も世界は続いていく」、そんな絵だと思う。

 

 美術館を出て、前の池沿いの公園を歩いていると、上の木々から様々な笑い声が降ってきた。木々に取り付けられたマイクから再生されているらしい。…現代artの展示の一つ?

 食事を取ろうとするが、適当なところがなかなか見付からず、かといってここでマクドで済ませるのは、個人的に許せないので、とりあえず昼は後回しにして、「パノラマメスダフ」目指して、 教えられたトラムに乗り、教えられた停留所で降りて、歩いていく。

 途中、カフェの看板に「Appel…」と書いてあるのが目に入る。ハーグは甘い物が名物の街で、アップルパイが有名な店もあるらしいので、これもきっとアップルパイのことに違いない。店員しか人がいない店に入り、店員に、先ほどの単語を発音してみるが、全然、伝わらない。諦めて、「アップルパイ&コーヒー」と英語で言うと通じた。何故?

 アップルパイ生クリーム添え+コーヒー(チョコ2枚)。3.25Euro。安い。それに美味しかった。多分、昼の間は、これで持ちそう。

 

 日差しが暑い中、パノラマメスダフへ。ここではmuseumkaartは使えないので、4Euro払って入る。途中の部屋に、彼の普通の風景画が飾ってあって、それを見る限り、 「余り上手くないターナー」みたいな風景画家だと思う。

 螺旋階段を上がり、いわば、小さな灯台の頂上に登ると、周囲全部に砂で舞台が作られ、その更に外側の壁一面、つまり360度に絵が描かれている、というのが、ここ「パノラマメスダフ」。思っていた以上に、かなり広い。円周が32メートルとか何とか。砂で作られた海岸はリアル。木靴(オランダだから)が片方だけ、うち捨てられていたりと。一方、周りの風景は、上手くできている箇所もあるのだが、「絵で描いている」止まりのところも多い。

 作られたのは1880年代らしい。これがもう少し後で有れば、映画のような映像でパノラマを再現しようと思った筈で、絵画で「世界 」を作り上げようとした最後の時代なのかも。ええと、当時は万博とかでパノラマブームとかになっていたんだっけ? 何故、メスダフがここにこんなものを作ろうとしたのか、その時代の社会文化との関係を調べてみたら面白いかも、と思うが、まぁ、誰かが既に書いているんだろうな(高山宏とか、そういう人が)。

 そういえば、日本にも「パノラマ島奇譚」などという小説を書いていた人がいたけど。あれも、そういう時代の中の産物なのかと。メスダフとはどれくらい、関連するかはよく分からないが。

 それにしても、パノラマというのは、あれですね。一望環視装置そのもの。フーコー?

 

 トラムに再び乗る。途中、木立の中を抜ける。これが「スヘフェニンヘンの森」か。降りたところで迷うが、少し戻って市立美術館へ。最初は特別展のBotero展を見る。

 名前からしてもボテボテ感に溢れているというか、debuya、つまり癒し系?の絵かと何となく今まで思っていたのだけど、実際に見ると、そうでもない様子。確かに、歴代の名画をパロディ化したものは、ユーモアが先に立つし(ヴェラスケスの「マリガリータ」を描いたモノには、「こんなマルガリータは嫌だ」と思った(^^;;)、果物までデブというのも、一見のどかではある。

 しかし、コロンビアの現状を描く近作等を見ていると、デブという、生々しい感情移入を排する姿形を利用することで、残虐な現実に直面させるという、そういう戦略なのではないか、と も思った。

 人形の絵なら、どんな残酷な場面を描いても、一段階、抽象化される、というような感覚。もっとも、それは、私がデブな姿には感情移入出来ない!からであって、デブ専の人が見たら、まるっきり別の感想となるのかもしれない。

 次は、ここの目玉、モンドリアンのコレクション。最初はあんなにも、もわーん、どよよーんと 濁った風景画を描いていたとは知らなんだ。それがヤン・トロップとシニャックの象徴主義に出会い、色彩を発見した、ということらしい。

 その頃の三連画「進化」は、いかにもモダニズムという感じの凄く格好良い作品なのだが、時代に残る人はそこで立ち止まらない。樹の幹をパウル・クレーみたいな線で描くことを、色々試行錯誤した後、あの分割画面に進んでいくのだった。

 「ヴィクトリー・ブギウギ」といった代表作(というか、未完の遺作)も展示されているのだが、ガムテープとかを使った、結構、雑な画面なのに驚く。もっと几帳面で神経質な人かと思っていたので。それにしても、こういうのは「障子の国の人」である私達こそが「発見」すべきだったんじゃなかろうか。

 2Fは、モンドリアン以外にも、現代美術の作品が色々(余り真面目に見ていない)。

 1Fはデルフト陶器とか、アール・ヌーヴォーの家具とか雑多な展示。デルフト陶器は、素人が見ても高価な品だと分かる物が並べられていたけれど、まぁ、所詮は東洋のコピー品である。

 昔の貴族の部屋を再現している一角では、いきなり横の置き時計がボンボン鳴り出したので驚く。見ると、ちゃんと時間も合わせてある。その隣のフロアーでは、ピカソとかモネとか近現代の画家の作品が置かれてい た。どうでも良いけど、モネとかを、こんなにどうでも良さげに(有り難みの欠片もなく )展示してある美術館は初めてだ。ドールズハウスの方がずっと大事そう。

 地下階は、世界の楽器と、20世紀ファッションの展示。残念ながら、オーディオガイドを借りないと何も聴けないのだった。

 ショップで絵葉書を見ていたら、美術書の中にHIROMIXも混じっていた。何でも良いから英語で書くのがポイントなのか。

 

 時間が余っているので、街に戻って、ついでにデルフトまで行こうかと思い立つ。ええと、トラム乗り継ぎだと、回数券が足りないなぁ。とここで、ハーグ駅(セントラルではなくHS駅)まで行って、そこから電車に乗れば、電車代は(パスを使用しているから)無料だと気付く。暑いので頭が働かないらしい。

 トラムで街に戻り、セントラル駅で降りずに、HS駅まで行く。電車に飛び乗り(こういう時、パスだと便利だ)、デルフトへ。15分ほどで着く。5時過ぎなのだが、「炎天下」という言葉がぴったりなほど強くて暑い日差し。私の人生で、今後、デルフトという土地を思い出す時は、この灼熱の暑さをまず思い浮かべるに違いない。

 とりあえず、旧教会の塔を目指し、出来るだけ日陰となるよう、運河沿いに進む。 旧教会の塔はどう見ても、ひどく傾いている。目の錯覚じゃないよなぁ。

 広場近くの雑貨屋でリンゴの缶ジュースとチョコクッキーを買い(またリンゴか)、喉を潤す。広場の裏で、フェルメールの屋敷跡を見(看板が立っているだけなのだが)、またしても出来るだけ日差しを避けつつ、東門まで歩く。

 東門横では、未だに運河上の橋を移動(水平に)させて船を通しているのが、新鮮。

 川に停めているボート(クルーザー)から飛び込む親子連れ。羨ましい(暑いので)。

 何とか駅まで戻り、駅構内のスーパーで水(spa)を買う。昨日から買っている青(炭酸なし)が無かったので、緑を買ったら、微炭酸入りだった。私は炭酸入りの水は苦手なのだが、意外にいけた、ということは疲れているのだろうか?

 デルフト駅から、直接、アムステルダムまで戻り、トラムでライツェ広場へ直行。昼、アップルパイしか食べていないことでもあるし、ステーキ屋のテラスで、思い切ってスペアリブを注文する。15Euro。どどんと2枚。作法がよく分からないが、手づかみしか食べようが無いので、手づかみでガシガシと。飲み物はハイネケンだが、ぬるかった。元々薄いビールなので、ぬるいと飲めたものではない。

 帰りに広場横のカフェでギネス(半パイント)を飲んで口直し。やはり、ギネスは美味しい。こっちだと安いし。

 ホテルに戻って、TVを付けると、英国で「Girl missing」なニュースを放送していた。…またか。ベッドの上で休んでいると、暑くて疲れたのか、両方で酔いが回ったのか、コンタクトを付けたまま、意識を失ってしまい、気が付けば、朝の4時半だった。…絶対に充血している。明日は「夜警」の日なのに、今回の旅は、目だけは大事にしないといけないのに。後悔しつつ、コンタクトを外して、もう一度寝る。


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補足

・パノラマメスダフ …サイト有り。スクリーンセーバーで、疑似体験も出来る。これだと(前景の砂浜まで)絵に描かれたように見えてしまい、実際の印象とは少し異なるのだが、割と面白いので、興味有る方はダウンロードしてみてはいかが?


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