Legends of DestinyStones

1.The Diary of Aisha


*月 *日

 あたしの名前はアイシャ。16歳。あてのない旅の途中。もうずっと前から旅をしてきたような気がするけど、本当はそうなってから一ヶ月も経ってない。それまでのあたしは、小さな村の暮らしを退屈だと思い、ドキドキすることがやって来ないかと期待して、毎日変わらない日々を送っていた。だけど、こんなことになるなんて思ってもみなかったし、望んでいたわけでもないの。あの頃の暮らしに戻りたい。今あたしが望んでいるのはただそれだけ。

 ううん、そんな考えじゃいけない。兄さんだったらきっと、こんな時にもそれを楽しんでやっていけるはずだわ。そして平然とした顔で帰って来て、待ってたあたしに茶目っ気たっぷりにその冒険談を語ってくれるはず。色々あったけれど大したことはなかったよ、アイシャって。だけど、あたしは兄さんじゃない。それに、一体誰に話せばいいの?

 でもね、兄さん、悪いことばかりじゃないわ。あたし、友達が出来たんだもの。仲間っていったほうがいいかな。ジャミルとミリアム姉さんとホークさんとゲラ=ハさん。

 ええっと、でもあの日から順を追って書いた方がいいわね。あたしが初めてガレサステップの村を離れたあの日。そして今までの生活に二度と戻れなくなったあの日のことから。

 

 あの日のあたしは、今から考えるとかなりバカだったと思う。村の周りにもモンスターがたくさん現れるようになってたのに、ホムディの足に追い付くようなのはいないって思い込んで、ついいつもより遠くまで行ってしまったの。いつの間にかモンスターに取り囲まれていて、いくら名馬ホムステイルの子ホムディだって抜け出すことなんて出来っこない。必死で戦ったけど、しまいには力も失せて段々気が遠くなったわ。後悔って言葉の意味を初めて実感しながらもうダメって思った。気を失う寸前に男の人の声を聞いたような気がして、兄さんが来てくれたんだ、その時ぼんやりした頭で思った。だからもう安全だって…

 気が付いてみると、あたしの前には焚火が燃えていた。夜だった。そして火の向こうには男の人が座っていて、身を固めているのは黒い甲冑だった。

 カヤキス! あたしは思わず叫んだ。カヤキス、あたしたちタラールの言葉で、黒い悪魔。昔から、タラールの前に現れる時、世界は大いなる試練に見舞われると言われてきたカヤキス。小さい頃、夜遅くまで騒いでいると母さんにカヤキスが来るって脅かされたものだったわね。だけど、本物のカヤキスはあたしを助けてくれた。伝説とは関係ないいい人なんだ、きっと。

 でも、その表情からは何を考えているのか分からなかった。ただ、ほう、その名を知っているのかと少し驚いた後、自分の城のあるクリスタルシティに寄ってみないかと尋ねた。クリスタルシティ、それはあたしが名前が知っていた唯一の都会。つまり、いつか行ってみることを夢見てた所。そこに皇太子自ら連れて行ってくれるなんて、まさに夢のようだったわ。

 クリスタルシティではびっくりすることばかり。大きな建物、水が吹き上げている広場とか。でも何といっても、あんなにも多くの人をあたしは今まで見たことも想像したこともなかった。お城では女の人が「お風呂」にあたしを入れてくれた。入るのはすっごく恐かった。お湯につかったら火傷しちゃうに違いない、やっぱりカヤキスは悪魔だったんだと泣きたい気持ちになったわ。入ってみたら、何だか変な気持ち。何で街の人はこんなものに入っているのかしらなんてその時は思ったわ。今では大好きだけど。

 その後でナイトハルト殿下(カヤキスの本名よ)は父の国王陛下に会わせてくれた。とっても優しいおじい様で、あたしに昔タラールにやっぱりアイシャていう人がいて当時の王子様との結ばれない恋があったことまで教えてくれた。それから殿下は、あたしにニザムおじいちゃんの所まで案内してくれるように頼んだわ。村に帰って来たあたしがどんなに得意だったか分かるでしょう。

 だけどその気持ちはすぐにひっくり返された。ナイトハルトはおじいちゃんに向かってローザリアの保護下に入るように言ったの。あたしたちタラールは他のどこからも自由でいることを誇りとしてきた民。でも、受けざるを得なかったわ。あたしも族長の家の娘としておじいちゃんの気持ちが良く分かった。そして、カヤキスを得意になって連れてきた自分が許せなかった。あたしがクリスタルシティに行かなくても、いずれこうなったはずだと考えても。だから、じっとして居られなくて村の外に飛び出してしまった。まさか、すぐ外まで人さらいが来ているなんて考えても見なかったんだもの。

 縛られたまま、運ばれていく馬車の中であたしは思ったわ。自分はつくづくバカだって。どうしてあたしは兄さんのように賢くなれないのかしら。そして兄さんとの約束が果たせなくなったことを悔やんだ。自分がこれからどうなるかという心配よりその気持ちの方が強かったと思う。本当よ。

 

 …半日掛けて書いたのに全然話が進まない。まだジャミルにも会っていやしないじゃないの。こんなことじゃ現在にたどり着くなんて不可能だわ。書けば書くほど差が開いていくみたい。もっと要点だけを書くようにしなきゃね。続きは又明日にでも書くわ。

 


*月 *日

 人さらいにさらわれたあたしがどうなったかというと、エスタミルのアフマドのハーレムに連れて行かれたってわけ。まぁ、そういったことは後から分かったことで、その時は何も分からずただ怯えていたわ。周りにいる女の子もそうだった。隣にいる子はファラといって、そんな中でただ一人明るく振る舞っていた。きっと、ジャミルが助けに来てくれるはずだからって。

 あたしがジャミルという人のことをもっとよく聞こうとしていると、そこにまた一人女の子が入ってきた。彼女は真っ直ぐこっちに近付いてくると、低い声でファラと呼び掛けた。それが、ジャミルだったの。幼なじみのファラを助けるために女装して潜り込んだってわけ。ファラは笑っていたけど、目は濡れていた。あたしはその時初めて、彼女はジャミルが来るのを本当は期待してなかったことに気付いたの。

 あたしたちは協力してアフマドをやっつけて外に出た。南エスタミルは世界で最も活気と喧噪に満ちた街だと言うけど、静かな所に長いこと閉じ込められていたあたしにとっては尚更だった。その音、音、音に立ちすくんじゃう程。ジャミルはあたしの身の上を聞くとガレサステップまで付いて行ってやるよと言ってくれた。どうせこの街から出ようと思っていたところだしなと。そこであたしたちは一緒に旅をすることにしたの。

 さしあたっては海を挟んで向こう側の北エスタミルに行くしかなかった。だけど、あたしたちにはそのわずかな船代を払うお金すらなかったわ。心配するな、とジャミルは言った。下水道を通っていけばタダだから。

 その後、ジャミルの「タダだから」に何度ひどい目に遭ったことだろう。だけど、当時のあたしはもちろん、そんなことは知らない。海の化け物に何度も襲われた後、やっとのことで北側にたどり着いた時、あたしはもう二度とこんなに目に遭いたくないと思ったわ。まさか「こんな目」が日常になるなんてね、思いも寄らなかったのよ。

 

 …あらあら、昨日とおんなじだわ。ようやくジャミルに出会っただけ。明日はミリアム姉さんと有った話からね。

 


*月 *日

 今日、また一人仲間が増えたわ。バーバラさんて言ってとっても不思議な人。でも、その話はまたいつかね。ミリアム姉さんの話から続けなくちゃ。

 

 北エスタミルでの夜、あたしたちは無事にたどり着いたっていうんで、パブですっかり酔っ払っていたらしいの。もちろん、最初からそのつもりだったんじゃなくて、せっかくだからお祝いしようって軽く一杯飲んだだけ。のつもりだったんだけど、結果は…二人で大いに騒いでいたみたいね。で。ミリアムさんとすっかり意気投合したってことらしいわ。全然覚えてないんだけど、明くる日、同じ部屋に寝ていたミリアムさんが、ズキズキする頭を押さえているあたしたちに教えてくれたところによるとね。

 ともあれ、こうなったのも何かの縁だからって、あたしたちと共に旅をすることにしてくれたの。ミリアムさんはあたしたちより年上で、火の術が使えるとっても頼りになる人なんだけど、条件としてリーダーにするのだけは止めてくれって言うのよ、自分は何かを決めたりする柄じゃないって。ジャミルも嫌がるんで結局あたしがやることになってしまった。あたしだって困るけど。雑用係と思っておとなしくやることにしたわ。さしあたっては、宿屋を取ったり、買い物をしたり、あ、それから地図の管理ね。

 とにかく、あたしとミリアムさんはすぐに親しくなったわ。お互い性格が似てるような気がするの。さん付けで呼ぶのは止めてくれないって言うから、あたしは「お姉さん」と呼んでいる。だって、あたしにお姉さんが出来たみたいなんですもの。ジャミルはジャミルよね。いい奴なんだけど、何か頼りないし、弱いし、そのくせ逃げ足だけは早いし、おまけにケチときてる。本当なら兄さんと同じ年なんて信じられないわ。

 だけど、あたしももう16歳、あの時の兄さんの年なのに、まだまだ兄さんのようには全然なれない。どんなに頑張ってみてもあたしには無理なのかもしれない。今だってリーダーとか言われても皆のお荷物に過ぎないようなもんだし… 兄さん、あたし一体どうしたらいいの?

 


*月 *日

 昨日のを読み返してみて恥ずかしくなったわ。愚痴を書いてみたってしようがないじゃないの。こんなことじゃ兄さんに怒られてしまうに決まってる。

 だけど、ガレサステップの村に帰ってきた時は、さすがに泣き叫ばずにはいられなかったわ。ようやくステップに戻ってきた時、あたしの頭の中は村の皆に何と言おうかってことで一杯だったの。おじいちゃんに二人のことをどう紹介しようかしら。それから村の皆に協力してもらって宴を開こう。だから、村が遠くに見えた時、いつもとどこか違うって胸の奥が不安で息苦しいのを無理に抑え込んで、村に着きさえすれば大丈夫って、必要以上にはしゃぎながら、村の入り口に向かって駆けて行ったわ。あたしが、アイシャが帰ってきたのよって叫びながら。

 …他の二人があたしに追い付いて村に入ってきた時、あたしは完全に取り乱していたらしい。二人の声を聞いてやっと我に返ったあたしは、涙声で、村に誰もいないのって訴えたわ。そう言うことで、それを誰かに否定して欲しいって気持ちからだったと思う。

 だけど、それを否定することなんて誰にも出来なかった。

 つい最近まで暮らしていたみたいで荒らされた様子もないのに、誰の姿もない。ミリアム姉さんが、だからきっと村の皆はどこかで無事にいるはずだよって言ってくれたけど、タラールの民がどこかへ移動する時はパオを畳むのが普通なの。それをほったらかしにして出て行くなんて、よっぽど悪いことが有ったとしか思えないのよ。

 あたしたちは村で一晩過ごした。ようやく帰ってきたはずの村はだけど、寒々として同じ所とはとても思えなかった。悪い夢が続いているんだという気がした。夢から覚めれば、そばにはおじいちゃんがいて… でも、朝起きた時に周りにいるのはいつもと同じ二人だけだった。

 「これからどうしようか」

 ジャミルが尋ねた。あたしこそ、それを聞きたかった。ここに居たって何にもならないのは分かってる。だけど、手掛かりもないのに一体どこへ探しに行けば良いのだろう?

 「行けるとこに行くしかないね」

と姉さん。そこで、あたしたちはカクラム砂漠へ向かうことにした。

 


*月 *日

 カクラム砂漠はガレサステップの北に広がっている広大な砂漠。南のローザリアに出るんじゃなかったら、こちらに向かうしかないわけ。

 そんなことは分かっていたけど、あたしは余り気が進まなかった。砂漠は強いモンスターがたくさんいるし、恐ろしい流砂が流れていて一旦巻き込まれたら簡単には抜け出せない。タラールの子は小さい頃からそう教えられ、決して砂漠には行かないように育てられるのよ。子供だけじゃない。勇敢な大人たちも砂漠には決して行こうとはしない。

 だけど、そんなことを言っている場合じゃない。有り得ないことが起こった今度だから、村の人達ももしかしたら砂漠の方から村を出ていったのかもしれない。そう思って中に入ったのは良いけど、本当出られないかと思ったわ。砂は歩きにくいし、滑るし、モンスターは次から次へと襲ってくるし、手掛かりを探すどころじゃない。大体この一面の砂の中、何をどう探せばいいの。足跡が有ったとしてももう消えているはずだし。

 やっとのことで砂漠を抜け出し、港のあるノースポイントにたどり着いたときは、一同しばらく声が出なかったわ。とにかく思い知らされたのはこのメンバーじゃ力不足だってこと。もっと強い人を仲間に加えなきゃ自由に旅が出来そうもない。

 だけどね、そう都合良く現れるわけがないと思うでしょ。ところが、それがいたの。あたしにはニーサ様のご加護がついているのかしら。

 とりあえず喉の渇きを何とかしようって入ったパブで出会ったのが、そのホークさんとゲラ=ハさん。二人は親友で東のサンゴ海で海賊をしてたんですって。あっ、だけど、決して人を殺したりしないのを誇りにしてたんだそうよ。でも、ある日、同業者の悪い奴に「はめられて」海から追い出され、結局船まで失ったそうなの。

 ちなみに、こういったことは全てゲラ=ハさんが教えてくれたわ。ホークさんの方は無口ってわけじゃないんだけど、必要なことしかしゃべらないことにしているらしく、今までの話は人に聞かせるようなことじゃないと思っているみたい。例によってミリアム姉さんはその話に感じてしまって、ぜひ一緒に旅をと持ち掛けたわけ。というか、ホークさんのかっこ良さに一目惚れしたという風にも見えたんだけど。ま、結果的には行動を共にすることになったわ。

 ホークさんは「俺は海のことしか知らない。陸に上がった今はおとなしく従うぜ」と言うんだけど、どう考えたってホークさんがリーダーになるべきよね。今まで通りあたしってことになってはいるんだけど、変だわ、やっぱり。

 それから、ゲラ=ハさんは実は人間じゃないの。ゲッコ族っていってトカゲみたいな顔をしているのよ。正直言うとね、最初はちょっと恐かったわ。でも、あたしたち、すぐに仲良くなった。話好きのとってもいい人なのよ。ただね…何かっていうとつまんない冗談を言うのが玉にキズだわ。

 


*月 *日

 行く当てもないんだったら皆でアロン島へ行ってみないかってゲラ=ハさんは誘ってくれたんだけど(アロン島はゲラ=ハさんの故郷が有るんだって)、行こうにも船代自体が無かったわ。ジャミルは、あたしがいい加減だからお金が溜まんないだって言うんだけど、あたしに言わせればジャミルこそ貧乏神なんかじゃないかと思う。

 それにカクラム砂漠についてはまだ気になっていたから、もう一度行ってみることにした。結果は駄目だったわ。船代が溜まっただけ。でも、ここにはきっと何か有るような気がしてならないの、おじいちゃんがいなくなった謎に関する秘密が。だから、いつか又ここにくるわ。そう心の中で呟いて砂漠を後にしたの。

 ところで、ガレサステップの近くにはもう一つ町があったの。ウロっていってノースポイントからニューロードを南下した所に有るんだけど、もしかしたらステップで起きたことについて誰か知っている人がいるかも知れない。そう思って行ってみたわ。

 でもやっぱり、そのことに関しては完全な無駄足だったみたい。タラールの民がいなくなったことさえ知らなかったんですもの。山で巨人を見たっていう人の話は少し気になるけれど、多分関係ないことよね。カラム山脈はウロの東側に聳えているんだから。

 ウロでの一番大きな出来事といったら、バーバラさんに出会ったこと。それはあたしたちの間にちょっとしたいざこざを引き起こしたんだけど… あら、もう寝る時間だわ。続きはまた後でね。ちなみに今もウロに泊まっているのよ。

 


*月 *日

 いよいよ、あたしたちはバファル大陸から旅立つことになった。もう後二時間もしたら船が出るわ。行き先はアロン島。つまり、あたしは再びノースポイントの宿屋でこれを書いているんだけど、船が出る前に、出来ればこの大陸での話をすっかり書いておきたいと思っている。だけど、時間に間に合うかしら。

 

 さて、バーバラさんの話からね。でもそのためには、まず旅人の登録制度について説明をしておかなくちゃいけないわ。この世界が幾つかの国に分かれているというのはあたしが説明するまでもないことだけど、基本的には自由に国と国を行き来出来ることになっているわ。だけど、どの国どうしも余り仲は良くないし、大量に人が入ってくるのは認めたくない。というわけで、一つの制度が作られたってことらしいの。

 それが登録制度。六人までのパーティーなら、その国の役所(普通は港町の)に名前を記した紙を出すだけで、国境が越えられるという仕組み。それより多ければ大臣の許可を取らないと駄目なの。で、ウロに来た時あたしたちは既に五人だったわ。つまりさしあたって後一人しか加えることが出来ないってことね。

 だから、最後の一人はもっと慎重に選ぶべきだってジャミルは言うわけ。つまり反対ね。姉さんも「うまが合いそうもないねぇ。」と言った。ゲラ=ハさんはこのことに関してはパスさせて貰うって言うんで、バーバラさんに加わって欲しいっていうあたしの希望は駄目だと思ったんだけど、意外なことにそれまで黙っていたホークさんが「俺はあの人が必要だと思う。」と言ったので、二体二になった。

 そこであたしがリーダー権限を初めて使って、加わって貰うことに決めたんだけど、これが後々皆が分裂する元になるんじゃないかって随分心配になった。五人も人がいれば何かと意見は食い違っちゃうのはしょうがないけど、それをどうしたら上手くやっていけるのかしら、団体で行動する難しさっていうのを最近つくづく感じさせられるわ。

 問題のバーバラさんがじゃあどういう人かというと、う〜ん、説明するのは難しいわ。職業は踊り子、歳はミリアム姉さんよりちょっと上くらい、あたしより十歳くらい上かな。だけど、感じはミリアム姉さんと対照的なの。すごく神秘的な目をした人で、最初パブで見つめられた時はドキドキしちゃったわ。どうやら誰かとの人違いだったらしいんだけど、それが元であたしたち、知り合ったの。

 あたしはすぐに旅にはこの人が必要だって思ったわ。理由は…良く分からない。あえて言えばカンかしら。別室であたしたちが長い議論をした末に、カウンターに戻ってきて、バーバラさんに一緒に行きましょうと誘うと、どっちでも良いという顔をしたけど、首に懸けている紫色の宝石を暫く揺らしながら考えた後で、頷いてくれたわ。一人で旅をするのにも飽きてきたからって。

 バーバラさんは今までのあたしの話を聞くと、アロン島に渡る前にもう一度クリスタルシティに行く必要があるかもしれないなと言った。ローザリアによってタラールの人々が捉えられているという可能性もあるから。そこで、あたしたちはバーバラさんの道案内の下、シティに向かったの。

 いっけない、もう二時間経っちゃったわ。もう桟橋に行かなくちゃ。続きは船の中で書くしかないみたい。分かってるわ、すぐ行くってば。ジャミルったら、そんなにせかさなくてもいいじゃないの。

 

 今、船室にいるのはあたしとバーバラさんだけ。他の皆は甲板の上にいる。その方が気持ちいいんだって。あたしも少しいたんだけど、右左に揺れる船の上から果てしなく上下する海面を見ていたら、何だか気持ち悪くなっちゃったわ。ちょっとホムディに乗っている時に似ていなくもないけど、でもホムディはあたしの言う通り走るからね。でもって、部屋に下りて来ちゃったわけ。まぁ、ちょうどいいわ。続きを書けるしね。

 

 二度目のクリスタルシティは何だかとても冷たく感じられたわ。あの時確かに又来てくれって言われたのに、お城の門兵は取り合ってもくれないし、街の人も自分の街のこと以外、無関心って感じ。ジャミルは王とか貴族なんざの言うことを信じる方がバカなんだって言ったけど、慰めてるつもりなのかしら。城の中に一歩も入れない以上、中に村の皆がいるんじゃないかって疑問は捨て切れなかったけど、近頃ローザリアの軍隊が街を出た話も誰かを捕虜にして戻って来た話も聞かないから、多分そんなことはないんだと思う。

 つまり、依然として、手掛かりは全然無しってわけ。というわけで、予定通りアロン島に「気分転換に」行ってみることになったわけ。良くは知らないんだけど、アロン島には昔の大海賊の財宝がどっさりと眠っているんだって。六人もいるとお金のやりくりも大変だしね(何だか主婦みたいだけど)、ここは一つ宝探しをしようってことになったの。財宝って言葉を聞いた時のジャミルの顔を見せたかったわ、本当にね。

 そうそう、クリスタルシティには水の術法屋が有ったからバーバラさんに「癒やしの水」を覚えて貰ったわ。これで戦いに関しては一安心てところだけど、火と水って相性悪いのよね、ますます溝が深まらないと良いんだけど。加わって貰った時の一件もあって、バーバラさんは何となく浮き気味なの。というか元々無口な性格だとは思うんだけど、ホークさんが責任を感じたのかバーバラさんに努めて話しかけるようになったのよね。

 まぁ、お二人は歳も近いわけだし、自然といえば言えなくもないんだけど、収まらないのは姉さんだわ。でもね、こういうことはあたしがどう出来るもんでもないし… 人間関係って難しいわ。ただ、より正確に言うと、姉さんが一方的に燃えているだけで、バーバラさんの方は何だか他人事のような態度なんだけど。

 彼女は時々手の届かないくらい年上に見えるわ。老けてるって意味じゃなくて、お年寄りだけが持っている年齢の知恵のような光があの瞳に走る時が有るのよ。今みたいに気持ちよさそうに寝てる時なんか、ごく普通の歳相応の美しいお姉さんなんだけどね。

 …ようやく、現在まで大体追い付いたかしら。書きそびれたことも何だかたくさん有るような気もするけど、それは思い出したらまた書くことにしよう。

 

 あの日から一ヶ月、色々なことが有ったわ。楽しいこと、そして悲しいこともね。だけど、今は毎日生きていることが何だかとても楽しい。この気持ち、兄さんなら分かってくれるわよね。

 暗くなったから、皆が下りてきたわ。明日からは、また新しい土地で旅をすることになるけど、この人達と一緒で有れば、どこへでも行ける、そう思うわ。ホークさんとゲラ=ハさん、ミリアム姉さんとバーバラさん、そしてジャミル。

 今日は随分長々と書いたけど、これで何だか気持ちの整理が付いたような気がする。もうくよくよと過去を振り返ったりしないでも平気。今を一生懸命生きれば、きっと全てが上手く行く、そんな気がする。明日が待ち遠しい気分。


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おまけ