7/17(木)

ブルージュ→ブリュッセル

 夜中、雨が降り出してきたようで、窓を閉めようとするが、網戸が填っていて閉められない。肌寒い…

 そのせいか、急に腎臓?が痛み出して起きる。結石? 一過性のもので、既に完治したと思っていたのに。とりあえず、風邪用に貰っていた抗生物質と痛み止めを飲んで寝る。

 

 朝食は8時からとのことなので、8時15分過ぎに行くが、他には誰もいなかった。早すぎ? 9時15分頃、チェックアウトする時にようやく、他の人は食事しているようだった。荷物を、というと、 表からは直接見えない一つ隣の部屋に置くだけなので、拍子抜け。 でも、こういうこぢんまりしたホテル(若夫婦二人で経営しているようだった)ではそういうものなのかも。

 外は小雨。サマーセーターを再び着る(その上に、更にウインドブレーカーを羽織る)。 今までセーターを(しかも2枚も)持ってきたことをずっと後悔していたのだけど、行きの飛行機以外に、まさか、また着ることがあろうとは思わなかった。

 最初、銀行に両替しに行くが、断られたので、ブルージュでの両替は止める。 こちらの銀行は普通、両替業務をやっていない様子。というか、街中で、両替商以外で両替を受け付けているのを見たことがない。

 天気が悪い。どんよりとした雲に小雨。肌寒い陽気。昨日の内に、ボートに乗っておいて良かった、とつくづく思う。

 

 グルーニング美術館に着くが、9時半からということで、開館前。数人の観光客と一緒に開くのを待つ。昨夜の雨に濡れた庭園が美しい。

 受付から展示場所までは少し長い廊下。大股で歩いていったこともあり、ほぼ一番乗りで部屋に入ったが、その最初の部屋の最初の絵画がボッシュなので、いきなり足が止まってしまう。

 しかも次の部屋には、ヤン・ファン・アイクの「ファン・デル・パーレの聖母」。華麗にして精緻にして崇高。

 「真に偉大な絵画」というものは、この世の中に、せいぜい数十枚しか存在していないと思うが、この絵は間違いなくそれに当てはまる。 これに比べたら、悪いけど、ルーベンスなんて、見習いの小僧みたいなもの。

 油彩表現は、その最初期に、人間が到達出来る最高の高みに既に上り詰めてしまっていた、という実例を目の前にして、暫く動けなかった。

 奇跡そのもの、ではないにしろ、この絵を目にするのはそれに近いことだ、という気さえする。少なくとも、この絵を直接、目にすることが出来ただけでも、今回の旅行の価値はあったと思える 。

 美術館は、途中からは完全に、現代美術館という趣。 こちらの美術館は必ず、古典だけではなくて、近現代の作品を合わせて収蔵展示している。現代の作品の展示にまで関わるのが、現代に存在する美術館として当然の責務であるという認識なのかもしれない。日本の「美術館」とは余りにも違う。というか、そもそも古典のコレクションの段階で、凡そ比較にならないわけだが…

 アントワープの王立美術館でも見掛けた、titgatという画家(最初、tigarという名だとばかり思っていた)の作品が多い。 多分、ベルギーの20世紀初頭の画家なのだろうと思う。素朴で、ウマヘタ絵っぽい感じだが、暖かい味わいがあって、嫌いではない。

 ところで、近現代の作品と並んで、子供の絵手紙(というか絵日記)みたいなものがあちこちに貼られているのは何?  これが最近のartistの「作品」なのか、それとも、地元の子供達が描いたものを一緒に展示しているのか、正直言ってどちらか全然分からなかった。後者のように見えるのだけど、そういう作風の人だっていそうだし。

 中にはクノップフの絵も。お馴染みの妹のポートレートと、街の絵の組み合わせ。

 この時はまだ知らなかったが、 クノップフは、幼少の頃の思い出の土地がここブルージュで、生涯に渡り、この街に強いノスタルジックな想いを抱きながら、そのイメージが壊れるのを恐れて、 この街に足を踏み入れることを避け続けたのだという。

 この絵も、その喪われたブルージュのイメージらしい。まぁ、気持ちは何となく分かるような。当時のブルージュは「死都」と呼ばれるような寂れきった街だったらしい(確かに、絵もそういう街だった)ので、クノップフが今のブルージュを見たら、幻滅の余り、 卒倒するかもしれない。

 続いて、聖母教会へ。ミケランジェロの聖母子が端正。中の宝物館は別に入らなくても良かった。

 メムリンク美術館。オーディオガイドを熱心に薦められる。入ってその理由が分かる。説明板が全く無くて、オーディオガイドが無いと、 タイトルも作者も全く分からない。そんなの有りかよ。

 まぁ、メムリンクだけ押さえればとりあえず良いか、と思い、他の作品は余り気にしないことにする。

 「ヨハネの祭壇画」はビビッドな色彩に目を奪われる。メムリンクに対して今まで思い浮かべていた優美なイメージとは結構違う。 虹のようなオーラとか、オレンジ色の雲に乗って飛んでくる様とか。何というか、横尾忠則的な世界? ウルスラは工芸品という印象。個人的には、メムリンクは「面白い」という範疇で理解するのは構わないのだが、私の「好み」とは微妙にずれている気がする。

 外に出ても相変わらず、天気も悪いので、上から街の景色を眺めようと思っていた鐘楼には上らず、その代わり、予定より早くブリュッセルに向かうことにする。

 といっても、空腹で電車に乗るのは辛い(と思われた)ので、ホテルまで戻る間に、見掛けたお菓子屋でアップルパイ(またしても!)とシュークリームをショーケースで指差して注文し、中の席で食べる。

 お茶は、ダージリンを頼んだら、お湯のポットにティーバッグが付いたものが出てきた。ダージリンの味はしたが、コーヒーの方が良かったかも。 ベルギーはコーヒーの国ではあっても紅茶の国ではないので(私はそれでも毎朝、紅茶を飲んでいたけど)。

 シュークリームは下がラズベリーソースで美味しかった。さすが、お菓子の国だけのことはある。計6.8ユーロ。

 宿に戻って、荷物を取り、ヤン・ファン・アイク広場からバスで駅へ。

 ブリュッセル行きの電車は空いていた。1時間後にブリュッセル到着。Central駅(地下駅)を降り、街に出た後、方向がよく分からなくて、ちょっと迷うが、すぐにホテルに着き(2分位のところなので)、チェックイン。

 ホテルはNOVOTEL OFF GRAND PLACE。駅とグラン・プラスの真ん中という、もの凄く便利なところにある。旅の窓口で予約した。1泊14,500円と、ホテルのサイトで直接予約するより安かったので。

  人通りが激しい広場に面したホテルだけ有って、ルームキーのカードがエレベーターのキーと兼用になっていて、カードを入れないとエレベーターが動かないシステム。しかも、自分の部屋の階にしか行けないらしい。

 手持ちのユーロが極めて乏しいので、最初に銀行を探すが、見付からない。

 グランプラスの近くのワッフル屋で、ベルギーワッフルを買う。 ベルギーワッフルといっても2種類有って、日本で知られているのは分厚いリエージュ風の方だが、選んだのはふんわりサクサクなブリュッセル風の方。

 トッピングを楽しむのがポイントらしいので、イチゴのスライスを頼むと、ワッフル一杯に載せてくれた。イチゴの甘酸っぱさとワッフルのほのかな甘さがマッチして美味。値段も2Euro位だし、安くて幸せ(^^;;

 ところで、今ここでいきなり気付いたことでもないのだが、今回の旅行で、見掛けるアジア人の観光客といえば、韓国人 ばかりである。こういう街一番の広場ともなれば、韓国人が集団で必ず溢れているのに、日本人はごく少ない。

 韓国人が特別、オランダやベルギー好きだとも思えないので、これはやはり、あれか。国力の差、という奴なのだろうか… しばし、感慨に耽る。

 まぁ、一番正解に近そうなのは、「夏休み」の取得時期(特に学生の)が日本とずれているのではないか、ということ 。日本でこの時期、旅行のための休暇なんて、リタイヤしちゃった人でなければ、そうそう取れないよなぁ(…私はまだリタイヤしてないけど)。

 しかし、良くも悪くも、外向きの貪欲さで負けているのは確かな気はする。いや、まぁ、負けたって別に構わないのだけど。ちなみに、(一部の美術館を除けば)美術館では余り会わなかったので、そういう目的の旅行ではないらしい。…じゃあ、何だろう。ビール?チョコレート?

 せっかく時間があるので、メトロとトラムを乗り継いで、現存するアールヌーヴォー建築として知られるオルタ邸へ。 途中、日本のキャラクター専門の玩具屋を見掛けて驚く。アトムとかキティとか。どんな所にも、他の土地の何かをあえて求める好事家がいるものである。

 オルタ邸は世界遺産のため、写真撮影は禁止。曲線に彩られた階段とか、アールヌーヴォー様式の家は目にした瞬間は綺麗だけど、数年も住めば、いい加減、飽きるのでは? と思った。

 それに比べ、下に広がっている庭(草木がぼうぼうに生い茂っていた)は良い。入ってくる風 も心地良いし。と思ってしまった私はやはり、典型的な日本人(老後は自分の庭いじりが何よりの趣味といった)なのかも。人工的な「自然のデザイン」よりは、ささやかな「自然」そのものの方が遙かに多様性に満ちていて、飽きが来ないという感覚。

 トラムで街中で戻り、漫画博物館へ向かう。

 午前中はあんなに寒かったのに、気が付けば、また日差しの暑さが戻ってきていて、途中、道に迷うと、やや辛いものがあったが、何とか辿り着く。 ちなみに、ここもオルタが設計したアール・ヌーヴォー様式の建物の一つ。

 漫画博物館の3Fは、この国の漫画(大体は、新聞や雑誌で連載されたもの)が色々紹介されていたが、全体に、アクションの可笑しさを第一に置いているという点で、手塚治虫初期(無声)時代という感じ。

 その中で、タンタンの垢抜けたセンスは、やはり別格。特別な存在であるのは、原画を見れば納得させられる。

 2Fはアニメのコーナー。そこにあった、世界の代表的なアニメの年表に載っていた日本アニメが、(よりにもよって)「紅の豚」だけなのは、いかがなものかと。これだけ当地で劇場公開されたとか (単なる推測)、理由はあるのだろうけど、ちょっとねぇ。

 1Fのショップは世界の漫画単行本売り場。貞本の大きな画集が目に付き、見るとその近くに日本の漫画(ただし、全て翻訳した物)が置かれていた。 最近のものでは「犬神」とか「黒鉄」とか。アトムを見て、やっぱり違和感ないなと思う。

 地図を見ると、思ったより、街の中心近くなので、歩いて戻る。その途中、深夜番組時代の「トリビアの泉」でも紹介された(へぇ)小便少女の像も見る。ただし、幸か不幸か、余り可愛くないのだった。

 少女がある辺りは、イロ・サクレ地区といって、レストラン街なのだが、客引きが多くて、余り落ち着ける感じではなかったので、今日は止める。

  その代わり、スーパーのような所で、水と紅茶、ビールを買う。食べ物も買うつもりだったが、温める手段が何もない以上、冷凍食品は駄目。そのまま食べられるお総菜というものが無いので、諦める。

 ホテルに戻って、買ってきたビールを飲もうとするが、栓抜きがない! 広場近くのビール屋?(酒屋みたいなもの。狭い店内が何百種類のベルギービールの瓶と缶で埋まっている)で、 一番シンプルな栓抜きを買い、近所をうろうろした結果、ホテルの前のハンバーガー屋でハンバーガーとサラダを買ってきて、 部屋に戻る。こんなんで良いのか、という気もするが、そういう日も必要?かと。

 今日買ってきたビールは、ランビックのクリークとウェストマールの確かダブルと、デヴェルの3本。 せっかくなので、この機会にベルギービールを色々と飲んでみようという発想。クリークはサクランボ味の紅いビールで、フルーツ系のカクテルやサワーが元々好きな私としては勿論、気に入った。日本でも 女性を中心に絶対、受けそうなお酒なのに。

 というわけで、クリークは一気に飲んでしまったが、3本全部飲むとさすがに、節食の意味が全く無いので、あとの2本は半分ずつ。どのビールを飲んでも、それぞれ違った味で、しかも例外なく美味しいのが、ビール王国たるゆえんかも。どこのカフェにも、ビールの種類毎に全て違う形のグラスが用意されているというこだわりも伊達ではないな と思った。

 といいつつ、今回はどれも普通のグラスで飲むしかなかったわけだけど(…じゃあ、駄目じゃん)。

 


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補足

・ヤン・ファン・アイク「ファン・デル・パーレの聖母」
・ハンス・メムリンク「ヨハネ祭壇画」


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