2nd day
(今日の予定) 午前・ブダペスト市内観光、午後・自由行動、夜・ドナウクルーズ
- 朝、シャワーを浴びていると、部屋の電話が鳴る。モーニングコールかと放って置いたら、再び鳴る。受話器を取ってみると、荷物が到着したので、ロビーまで取りに来て欲しいとの添乗員の電話。というわけで、出掛ける前に着替えることが出来たのだが、飛行機は午後まで飛んで来ないという話だったし、どうやって来たのだろう。ベルギーからトラックで? 一晩で着くのかしらん?
- 朝食。バイキングスタイルだと、ついつい色々取って試してしまうのは単に貧乏性なだけ? とはいえ、ハム+チ-ズ+卵という組み合わせ自体は結局、どこでも不変だけど。ここで驚いたのは、生野菜が皮を剥いただけで丸ごと置いてあること。ニンジン一本とか。パプリカも一個そのまま。郷にいれば郷に従え、というように(この言葉を思い出す度に、郷ヒロミがgo,
go言っている様も浮かんでしまうのだが、それはさておき)、パプリカ丸囓りをやってみる。…味がない(当たり前だが)。全部食べるのは、ちょっと無理。
- 午前中は、バスでの市内観光ということで、バスに乗り込む。ガイドは、ハンガリー人のおじさん。昔、大阪芸大に留学していたことがある、とのことで、関西弁イントネーションの何となく妙な日本語。大体、どの案内でも、「ですけれども」を付けて喋っている。「ハンガリー、自由の国になってから10年ですけれども」とか「ここの水は美味しいですけれども」とか。あと、受け身は難しいのか、「られる」であるべき所は能動形のまま喋っていた。まぁ、意味は分かったし、別にそれで困りはしなかったですけれども。
- ガイドのおじさん(ガルさん?)の言うことには、ブダペストの人口は1千万人なのに対し、年間の観光客は4千万人なのだという。4倍だ。ちなみに、日本からの観光客は10万人。おじさんは、それを指して「ちょぼちょぼ」と、もっと来ることを願っていたが、既に年間10万人も日本人観光客が来ていることの方が驚きだ。
- 最初に向かったのはゲッレールトの丘。ここは、ドナウ河の鎖橋を中心に左岸のブダにある王宮と右岸のペストにある国会議事堂が見下ろせるビューポイントということで、とりあえず写真を撮る私ら。まだ、「こんな所に立っている自分」にリアリティが感じられない。どうして、私はここで外国の風景を眺めているんだろう、というような違和感。地差ボケ? それにしても、暑い。空は快晴。長袖にしたのを後悔。既に、30度は有りそうだ。
- あの目つきの悪いじいさん(といっても6,70歳台)が、こういう所は皆、高台から眺めるんだ、と(自分がかつて行ったことがあるらしい)シドニーもそうだったとか喋っている。なぜ、その二例だけで一般化出来るのか不思議だが、要は、この景色も大したことはない、と言いたいらしい。こういう、何でも価値を否定したがるような人物は、どこにでもいるけど、同じツアーにいるのは迷惑だと思う。
- バスは、丘を下った後、ペスト側に移り、アンドラーシ大通りを、英雄広場へ向かう。昼の光で見ると、綺麗に修繕している建物とそうでない建物の両方があることがよく分かる。十年前まで、ここは社会主義国だったことを改めて思い出す。ガイドの話によると、後者の壁が真っ黒に煤けているのは、排気ガスのせいらしい。多分、ここでは、排気ガスの規制はほとんど進んでいないのでは? そういえば、HONDAとかTOYOTAとか日本車も多少は見掛けた。SUZUKIの軽が、一番多く見掛けた車種かも。
- 英雄広場、ここで一旦、下車。真ん中に高い柱の上の銅像、それを取り囲むように半円の列柱とその上の英雄像。建国1000年記念として100年前に作られた広場らしい。英雄像は、修復でもしていたのか、つい先月だか戻ってきたばかりだそうで、ここでもまだ、列柱とか下の地面とかを直していた。広場で右往左往している観光客の中には、昨日のLook
JTBのツアー客も。本当に、同じように回っているわけだ。
- 市民公園をぐるっと回ってから(中の池は、冬、天然のスケート場になるとの話。凄く寒いらしい。今は、30度なのに)、元来た道を引き返す。途中、フランツ・リストの住んでいた家(リスト記念館)の横を通る。リストはいつもファンに食事を差し入れて貰っていたので、この家には台所が無かったのこと。そういう人も世の中にはいるのね…
- 西駅の横を通過。エッフェル塔を作った人と同じ人の設計とかで、非常に綺麗な建物。だけど、今では前面はマクドナルド。結果として、非常に綺麗なマクドナルドになっている。こういうのを見ると、京都のマクドナルドが、「地域との調和を目指した」などというのが非常に薄っぺらいレベルでしかないのが分かってしまう。
- 聖イシュトバーン大聖堂。ペスト側最大の観光地。だけのことはあって、巨大かつ壮麗な建物なのだが、外面も半分は排気ガスで真っ黒だし、中も隅の方の壁はボロボロ。社会主義国時代は、修繕自体が出来ず、その後は出来るだけ直しているものの、費用がなかなか調達出来ない、ということらしい。ここでの目玉は、聖イシュトバーン(初代ハンガリー国王、1千年前の人だ)の右手のミイラ。綺麗な箱に入って恭しく安置されているのだが、箱が光っていて、あいにくと形はよく分からない。分からない、といえば、昔から、キリスト教が聖遺物(骨やら、ミイラやら)を高く評価して敬ってきたことが、私にはよく分からない。物に支えられた宗教、とは何なのか…
- カソリックに於いては、大聖堂のドームの高さはヴァチカンのあれより高いものを立てることは許されないらしく、ここはそれよりは低くなっている、とのこと。そういう話を聞くと、ちょっと笑ってしまう。神の高みに最も近いのはヴァチカンであるべきだという発想か。全く持って、俗っぽい権力指向だ。
- 国会議事堂を横目に見た後、マルギット橋を渡って、ブダへ。王宮の丘の下で、下車。漁夫の砦まで歩いて上る。暑い。じりじり。喉が乾く。上の三位一体広場に泉があってちょろちょろと水が湧いていて、人が並んでいる。思わず、私も並ぶが、ほんの一口しか飲む時間がなくて、残念。
- 漁夫の砦から、下のドナウとペストの街並みを眺める。マーチャーシュ教会に入る。というわけで、ブダ側の観光は大体、お終い。少し離れた所にある、土産物屋に連れて行かれる。ハンガリーのあの刺繍屋と飲食品屋。刺繍は、テーブルクロスに良いかなとは思ったのだけど、初日なので、まだ財布の紐が精神的に堅くて、買えずに終わる。飲食品屋ではお土産より、当面の脱水症状からの回復のため、アイスティーのペットボトルを買い、それからせっかくなので、パプリカのパウダーも買ってみる(辛いと甘いのが有るようなので、「Sweet」な方を聞いて買う)。
- バスが止めてある所まで、丘の上を歩く。アイスティーで一息ついたので、周りを見る余裕が戻ってきた。こういう静かな古い街並みというのは、割と好み。ペストのレストランで昼食(コンソメ、パプリカチキン、マカロニ、ストロベリータルト)を取ってから、午後は自由行動ということで、街中で解散。
- 午後2時。どうしたものか。ああっ、目の前の電光掲示板の気温表示、34度になっているよ。…とりあえず、向こう岸の温泉を目指そう。というわけで、繁華街のヴァーツィ通りを南下し、エルジェベート橋のたもとへ。橋の向こう側に、トルコ風温泉の一つ、ルダーシュ温泉が有るので、あとは橋を渡るだけ。なのだが、橋の長さは、1キロは無い筈だけど、炎天下の中、なかなか向こう側が近くならない。直射日光を少しでも避けようと、橋を釣っているロープの影の下を出来るだけ選んで歩く。ようやく着く。
- 建物に入ると、薄暗い待合室のようになっている。英語表示とかは無いので、一体どうすればと思うが、ともあれ、窓口のおばちゃんから切符を買い、中に入る。とそこは市民プールのロッカールームのようになっている。座っていた子供が、何やらくれる。どうやら、これが噂に聞くふんどし、らしい。適当なロッカーで服を脱いで、先程のふんどし(といっても、前に掛けるだけなので、むしろエプロンという方が近いのかも、は、裸エプロン? でも、エプロンは胸から掛けるものだし、などとつまらないことを考えたりした)を着用してから、外に出て、子供と一緒に座っていたおじさんに、鞄とか貴重品はどうするの?と聞く。つもりが、上手く話せず、鞄、鞄、とただ繰り返す謎の日本人と化している私。おじさんは困っていたが、どうやら、ロッカーに鍵を掛けて入れておけ、ということは分かった。大丈夫、なんだろうか。で、鍵は、そのふんどしから出ている紐に結んでおく、と。OK。だけど、風呂はどこなの? というわけで、散々バタバタした結果、やっと風呂がある部屋に辿り着く。
- そこは、幾つもの石柱に支えられた半円のドームで覆われた石造りの部屋だった。真ん中に8角形くらいの形をした大きめの浴槽があり、それを取り囲むように小さい浴槽が周囲に幾つか作られている。とりあえず、真ん中に入る。やや温め。36度。しかし、外が暑かっただけに、結構、心地よい。首を浴槽の端に置くと、自然と上を見上げる格好になるが、上のドームには明かり取りの硝子の穴が幾つか開けられており、色とりどりで割と、神秘的。見上げてごらん、夜の星を、という感じだ。といっても、静まり返っている、というわけではなく、いかにも銭湯的に、くつろいでいるブダペストっ子のおっさん達の中には、世間話(多分)で盛り上がっている人達もいた。黙々と入っている人もいたけど。それにしても、平日の真っ昼間だというのに、皆、何している人なんだ。
- 周りの浴槽にも入ってみる。おおっ、これは。いい湯だな、あははん。と歌ってしまいたくなる42度。やっぱり、日本人にとって「極楽」とは、40度強のお湯で満たされている世界に違いない。しかし、日本以外ではそういう温泉はむしろ例外的で、残りの浴槽は、28度、30度、33度、となっていた。外が暑かっただけに、28度もひんやりとして気持ちは良かったけど。一番、長いこと入っていられそうだったのは、33度。ただ、ぼーっとして、何も考えずに…
- とはいえ、日が暮れるまで、ひたすら風呂に浸かっているわけにもいかないので、適当なところで風呂を出る。外で、タオルを取って、ふんどしを捨てる。ロッカーまで戻って、鍵を開けようとするが、開かない。何で?と悩んでいると、先程のおじさんがもう一つの鍵を入れる。どうやら、二重のロックになっているらしい。ふうん、それなりに考えられているんだ。そういえば、ロッカーって、鍵でロックした場所のことなのか、初めて気が付いた。
- もう少し南のゲッレールト温泉まで歩いて行き、そこで黄色い車体のトラム(市電)に乗り込む。割と乱暴な運転というか、路上を疾走するトラム。地下鉄に乗り換えて一駅。カフェ・ニューヨークを目指す。かつてブダペストの文士が集まった、アールヌーボー風のカフェということなので、どんなところか、ちょっと見てみたいというミーハー心である。そろそろ、この辺がカフェ・ニューヨーク… あれえ? …そこで私が見たのは、ベニヤ板で覆われた、改装中の古いビルだった。あーあ。がっかり。
- 仕方ないので、デアーク広場に出て、ヴァーツィ通りを、ウィンドウを眺めながら歩くことにする。暑いので、街頭でアイスを買って、食べる。ミニのカップだけど、75Ft、つまり35円くらいとは安くて素晴らしい。こうして歩いていると、街中に日本人が思った以上にいることに今さらながら驚く。
- ところで、せっかくブダペストまで来ているので、ヘレンドのお店を覗くことにする。ヘレンドといえば、イギリスのウェッジ・ウッドなんか目じゃない、超高級な磁器のブランド。憧れのという形容詞が相応しい。色々な種類が置かれている。しかし、基本はセットらしい。そうか、こういう店で買うような人はセットで買うのが常識なのかも。しかし、セットって言ったら、45万Ftとか。日本円に直しても20万円… 手が出るわけがない。自分の身の程を思い知らされて挫折しかけるが、ここまで来て…と思い直し、せめてティーカップを2組、思い切って、買って帰ろうと決心する。それなら、多分、2万5千円くらいで買える筈だし。
- が、しかし。単品は品揃えの紹介という意味合いが強いのか、聞いたカップは色違いを含めて、2組あるのは無かった。カップ一つだけでは、来客時にも使えないし、ちょっと間が抜けているよな… というわけで、泣く泣く「ヘレンドのある暮らし」へのステップアップ計画、断念。やはり、私なんかには過ぎた夢だったのね(遠い目)。それにしても、アイス35円の国で、この値段って、もの凄く高い、ということなんだろうな。
- ちなみに、私がカップ選びでうんうん唸っている頃、日本人の中年の夫婦が入ってきた。聞こえてきた、彼らの大声での会話の名古屋弁と、いかにも名古屋人な思考に思わずずっこけそうになる。ティーカップなんか割ってしまったら勿体ない。それより、大きな絵皿を飾っといた方が、ええんだわ。というわけで、店員に一つの皿を指す。それはセットの中の皿だったのだが、その辺、凡そ気にしないのが、いかにも。店員も悩んでいたが、どうやらスペアが在庫にあったらしく、彼らはその皿を買っていった。…私に足りないのは、この手の厚かましさ、なのかもしれない、と更に少し落ち込んだ。
- せめて、普通のお土産でも買おう、と通りをぶらついた末に、とある路地の奥の土産物屋へ。残りFtの大半(といっても2千円くらい)を使って、特産のフォアグラの缶詰めを買う。それから、ウニクムという、この国の養命酒のような薬草酒のミニボトルがあったので、話の種にとレジに持っていくと、レジのおばあさんにクスクス笑われる。…え? 笑いを誘うようなお酒なの、これ?
- 地下鉄で、南駅へ。窓から駅が見えたくらいだから、駅まで行けば、ホテルはすぐ分かるだろうと思っていたのだが、駅を降りてみても、全然、分からない。暑さでバテているし、足も重い中、途方に暮れるが、目の前の酒屋で飲み物を買って、場所を聞くと、たまたま店にいたおばあさんが、わざわざ外の道まで一緒に出て、道順を教えてくれた。こういう時の、こっちの人は、親切だと思う。何とか、ホテルにたどり着いて、ベッドの上に倒れ込む。バテバテ。体が重い。が、夜はオプションのドナウクルーズがあるので、やおら起きあがり、ロビーに集合。
- バスで、ドナウへ。国会議事堂の少し北辺りに発着場があり、遊覧船に乗り込む。こういう時、一人者ということで、座る場所に困るのだが、大学生の息子と母親の二人連れが一緒に座らせてくれたので、運ばれてくる夕食を食べながら、会話。大学生の彼が、このツアーの中では、一番精神的に近い気がする。
- 暫く船は北上していたが、夕食を食べ終えた頃、向きを変えて南下。より見晴らしの良いデッキへ移動。すっかり暗くなった河の前方、両岸にライトアップされた建物が見えてくる。溜め息を吐きたくなる位、綺麗な眺め。やがて、船は光輝く王宮を横目に、同じくライトアップされた鎖橋を潜り、更に南へと。頬に当たるそよ風が心地よい。ブダペストの夜景を十二分に堪能する。
- こうやって夜景を見ると、まるでこのために存在する都市のような気さえするが、社会主義時代は休日しかライトアップはしていなかったらしい。ふむふむ。というより、こうしてライトアップした夜景を眺めるようになったのはそんなに古いことではない筈で、今を基準に物事を考えてはいけないことに思い当たる。
- ホテルに戻って、そのまま寝たくなるが、洗濯ものを溜めてはいけないと思い、気力を振り絞って、洗濯をしてから、寝る。
to be continued.
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