幻獣とは、出現の「記録」や、ミイラといった「証拠」が残されている、「生まれ」て「死んだ」「生き物」を指すものとして、この展示に辺り、ミュージアムが提唱した言葉。そういう「幻獣」の「目撃例」を、江戸時代中心に、現代まで取り上げ ている。基本的には学芸員・湯本豪一氏の本(「地方初 明治妖怪ニュース」とか)の延長線上の企画という感じ。
こういうのは話を聞いた方が面白いので、前回同様、学芸員の説明がある日に行く。今回、説明をしてくれたのは、この企画のもう一人の学芸員・高橋典子氏。
1.日本の幻獣
河童のコーナーで目を惹くのは、やはり瑞龍寺の「河童のミイラ」かと。今回、ここの寺宝である河童・人魚・龍のミイラが全て展示されているのだけど、何というか造形的に完成度が高い。しかし、現代に生きている河童ということで言えば、天草の神社に伝わる「河童の手」のミイラ。
夏祭りに、子供達の頭を撫でて疫病除けとするしきたりが今も残っていて、この手がなくては夏祭りにならないとのことで、「今年も7月30,31日に祭りが有るので、前日、私が天草まで一旦返しに行って、その後でまた借りてくることになってます」とは、学芸員さんの話。
河童の手に撫でられて、無病息災に育つ子供達。ちょっと良い話ではないですか。
鬼と言えば、鬼退治伝説。そして、その中でもメジャーなのが、(首を刎ねられた)酒呑童子と(片腕を切り落とされた)茨城童子。ということで、鬼の遺物は、首と片腕のセットというのが決まりごと、なのだそうだ。
宇佐市の廃寺に、大きな「鬼のミイラ」があるので、ぜひ展示したかったのだが、今も「オニ様」として多くの参拝者を集めている(バスで来る位の)ため、写真だけで諦めたとのこと。ミイラになった高僧のような顔付きは拝む人がいると訊いても確かに納得(何の宗教かは定かではないが)。宇佐市といえば、昔行ったことがあるのだけど、そんな魅惑の?スポットがあるとはつゆ知らず。
天狗の詫び証文が面白い。捕まった天狗が逃げた後に残されていたという巻物。筆の方向から、置いてある向きが逆では?と数人の方から訊かれたけど、天狗がどうやって書くかは分からないので、巻物の向きの通り、置いてあるとのこと。解読不明な文字?は「天狗文字」らしい。
あとは「天狗の髭」を用いた髭占いの話とか。「オン・アビラ・ウンケン・ソワカ」と3回唱え、髭の根本が動くと凶、先が動くと吉、とのこと。天狗の髭が手に入ったら(どうやって?)、一度やってみよう。
どうしてこうも沢山、「人魚のミイラ」が残っているかというと。いわば日本土産として根強い需要があった(シーボルトも持って帰っている)かららしい。
肘を折り曲げ、手を顔の横に持って来るのが定番。何故、そういうイメージ(そうでないのも有る)なのかは説明が無かったけど。
優美な人魚というのはアンデルセンが翻訳されるまでいなかったのか、日本古来の「人魚」の姿は皆、こうだったのか。不老長寿の肉と言われても、ちょっと、普通の神経では食べられないよなぁ(いや、アンデルセンの人魚を「食べる」のもそれはそれで出来ないと思うけど)。
1805年5月6日に、越中国に出没した人魚なんて、体長11m、頭に2つの角を持ち、口から火を吹いたという凄まじい化け物で、松平加賀守の家来1500人が出動し、450挺の鉄砲で退治したとの「記録」が残っているという。わんだばばば、なBGMが似合いそうな話だ。
落雷の時、空から落ちてくる、とされた幻獣。落ちてくるだけ、というところが、奥ゆかしい。
姿形は色々。新潟の西生寺から借りてきた「雷獣のミイラ」は猫科風(猫じゃん、と言ってはいけませんとのこと)。各所で目撃された雷獣の絵はモモンガ風だったり、タツノオトシゴ風だったり(学芸員さんはタツノオトシゴ風の幻獣フィギュアを目印に持っていました)。水掻きや鋭い爪、といった共通する特色は有る程度、あるらしいけど。
1802年に琵琶湖の竹生島に落ちてきた雷獣の絵が、どことなくケンケン風な目つきでユーモラス。あと、1823年に江戸の細川邸に落ちてきた異獣は、大きな一つ目、長い鼻で、FFにこんな感じのモンスターが出てきたな、と思ったりも。
「件」と「尼彦」(「アマビエ」「尼彦入道」)、亀女とか。同じカテゴリーとして前回の「呪いと占い」展で紹介されていた「白沢」 が無かったのは、日本では「白沢」が実際に目撃されたことが無かった、ということなんだろうか。
この辺は前回と図版も同じだったりするので、新たな感動は余り無かったけど、1865年に淀川に出現したという豊年魚の姿は面白かった。どう見ても、怪獣。姿は2mというので、そんなに巨大ではなかったようだけど。
1782年に会津磐梯山で発生した連続児童誘拐事件の犯人として怪物が討ち取られたことを報じる瓦版。事件もさることながら、瓦版に描かれたその怪物の姿が嫌過ぎ。ステレオタイプな「長髪の太ったオタク」を三等身の怪物風にアレンジしたらこうなる ような…
一方、印旛沼の事件の当時の公式報告書は、絵本風の至って可愛らしい絵と、13人が即死したという事件の凶悪さのギャップが印象的。
2.幻獣尽くし
姫国とは日本、つまり日本版「山海経」という意味の、幻獣図鑑。他に類を見ない、学芸員さんイチオシの本とのこと。稚拙ながらも綺麗なカラーの「虫」や怪物の絵に、どこそこで何というモノが現れたと、「実録」としての紹介がされている。
豆腐を好んで食べた「虫」とか。火打ち石を食べる怪物とか、その様子も奇妙なものばかりだが、何と言っても、絵の子供の落書きのような、独特のふにゃふにゃ感が魅力的(会場には一部しか展示されていないけど、図録には全て収録されているので、一見の価値有り)。
昭和10年に新潟で生け捕りされた海の怪物が見せ物として披露された時のチラシ。どういう姿だったのか、展覧会の出口で、その想像図を募集していたけど、並大抵の想像力では、絵にすることは出来そうもない。
「頭はクジラ、胴体がコウモリ、足が人間、尻尾が獣。重さが675kg、全体の大きさが2.4m、横幅が4.5m、飛行機のような格好をして、水中、陸上、空中を自由に動ける」
って一体、どういう怪物やねん!
3.メディアが報じた幻獣
明治時代の地方新聞の三面記事に登場する、幻獣目撃談。湯本豪一の本そのままだというか。事実として報道しているもの以外に、そういう下らないことを信じるようでは駄目だ、という説教とセットで紹介するものもあって興味深い。文明開化の時代の「良識」の揺れ動き方というか。
ツチノコとかイッシーとか。この辺の展示は、ほとんど「並木伸一郎氏 提供」なのに笑う。いや、まぁ、普通の人は、そういう新聞記事なんか集めてないだろうけど。
あと「雪男・サスカッチ・イッシー」とかいう、当時のいかにも怪しげなドキュメンタリー(牛追純一の?)をビデオ上映していた(図録にはこのドキュメンタリーに関する説明が何故か一切無い)。昔はこういうのが流行ったな、そういえば。雪男の目撃談がある雪山で一週間合宿して見張るとか、馬鹿馬鹿しすぎて、今見ると笑える。
有名なサスカッチ出現の映像も紹介されていて、「ハリウッドでも可能だけど、5千万位掛かる。個人がそこまでして作るとは考え難い」みたいな解説が入っていたのだけど、あれは今では、やっぱり捏造(それこそハリウッドのスタッフが着ぐるみを用意)ということになっているんでしたっけ?
今回は、正直言って、ちょっと物足りなかったかなと。こういうテーマなら、それこそ最後のコーナー辺りで、見せ物小屋の一つもどかんと再現して欲しかったわけですよ。前回のいざなぎ流の御幣の部屋とか、御神籤コーナーみたいに。
せめて、そういう場所の映像だけでも欲しかった。サスカッチなんかじゃなくて。
とはいえ、「實物です、一度は御覧下さい。話の種です」(「実録 海の怪物!!」のチラシ)であることは間違いないので、この手の展示が好きな人は是非。どうせなら、学芸員の解説がある時間帯がお薦め。土曜は2時。日曜・祝日は11時だそうなので。
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