ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の感想  2005.4.23

「どんな人もこれを読まずに育ってはいけない、と本屋が教えてくれたものばかりです」

 

(過去の日記から転載しています 。★はお薦め度、というかジョーンズらしさ度)
 

 2001年

 「魔法使いはだれだ 徳間書店 (Amazon/bk1)

 登場人物の一人一人が「存在している」気がする。主人公から見た姿、というわけではなくて(大体、この物語の主人公は誰だ?)、それぞれが自分の都合で行動する様を巧みに織り合わせて物語を進めていく(というか、こんがらがっていく)。

 特に物語が転がり出していく辺りは、さすがダイアナ・ウィン・ジョーンズ、という面白さ。ただ、後半、動ではなくて静の展開になってしまってからは、何だか作者に言いくるめられてしまったような印象が… あと、歴史の分かれ目を探す話は、昔、何か別の英国ファンタジーで読んだことがある気もするのだけど、気のせい? (2001.10.14) ★★★

 

 「魔法使いハウルと火の悪魔 徳間書店 (Amazon/bk1)

 スタジオジブリによる次回制作予定のアニメーションの原作。それが徳間書店から出版されたのは、まぁ当然なんだろうな、というか、だからこそ翻訳が出たのか? この際、ジブリ・バブルだろうと何だろうと、本さえ出れば、ただ感謝ですが。

 彼女の作品としては、平均的な面白さ。予定調和的なムードが割と強いので、それほどハラハラしなくて残念、とも結末が分かっていてもこんなにも楽しい、とも言える。ところで、このハウル・シリーズ、有名な作品を毎回、下敷きに使っているようで、この巻は「オズの魔法使い」の世界。勿論、スピルバーグの「A.I.」のような頭の悪い引用ではないけど。次巻は「アラビアン・ナイト」らしい。

 この作品の面白さは何と言っても、18歳のヒロインが魔法で90歳のおばあさんに変えられてしまってからの、恐いもの知らずな「言いたい放題」にあるのだけど、アニメにした場合、作品を見る子供達が「彼女」に果たして感情移入出来るものなのだろうか。その辺が、アニメ化における興味であり、不安でもあるところ。(2001.10.16) ★★★☆

 

 「アブダラと空飛ぶ絨毯 徳間書店 (Amazon/bk1)

 「魔法使いハウルと火の悪魔」の一応、続巻。一言で言えば、さらわれたお姫様を奪還するという、彼女の作品とは思えないほど、オーソドックスな物語。しかし、色々な小技を効かせておいて、最終的に綺麗にまとめる手腕はさすが。前作のソフィー&ハウルほど、今回の主人公アブダラのキャラクターは立っていないけれど(というか、比べる相手が悪すぎる)、物語のバランスといった点で、個人的には、こちらの方がより好み。

 それから、この作品に限ったことではないけど、自立した女性像を生き生きと描いているのも魅力。「アリーテ姫」のような、つまらない人物しか出てこない「フェミニズム児童文学」を平気で書いてしまう人は、こういう作品を読んで猛省して欲しい、と思う。(2001.10.18) ★★★☆

 

 「わたしが幽霊だった時 創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 私の、ジョーンズ初体験。8年振りの再読なのだが、良い感じに?内容を忘れ去っていたため、新鮮な驚きと感動を再度、堪能。

 気が付くと、主人公が「幽霊」として彷徨っているところから始まる前半は、読んでいても主人公同様、訳が分からず、辛抱が必要だが、「幽霊」として突っ立っているその理由が、主人公と読者に分かり始めてからの後半は、圧倒的な面白さで一気に読んでしまう。ポンポン飛び跳ねるボールを追い掛けるようで、付いて行くだけでかなり大変、ではあるのだけど。

 物語の語り方に関しては、私が最も好きなタイプ、といっても良いかも。(2001.10.20) ★★★★☆

 

 「九年目の魔法 創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 これも細かいところは忘れ去っていたのだが、読み終えて、本当にどうして忘れ去ることなど出来たのだろう、と嘆息する。主人公の少女が、自分の今迄の9年間の記憶から奪われてしまっていたものを取り戻そうとする、驚嘆すべきこの冒険小説を。

 ここまで読んだジョーンズの中では、やはり最も精巧かつ感動的。傑作という言葉が相応しい。もっとも、話の芯となる英国のバラッドについての正確な知識が無いため、最も大切な部分に関して、完全には読み取れていない気がするのが残念…

 少女は、真実の9年間を思い出す過程で、自分がいつもある人から色々な本を送って貰っていたことも思い出すのだが、最初の本と一緒に送られてきた手紙は、本好きのツボを間違いなくギュッと押す文章。「どんな人もこれを読まずに育ってはいけない、と本屋が教えてくれたものばかりです」

 あぁ、その言い方はよく分かる。しかし、果たして、私は今まで、どの位そういった本を読んで来ることが出来ただろう。勿論、ジョーンズの作品も「読まずに育ってはいけない」ものに違いない。…もっとも、いくら読んでも、こう、綺麗サッパリ忘れ去っているのであれば、それは「読んで育った」内には入らないよなあ。(2001.10.24) ★★★★★

 

 「クリストファーの魔法の旅 徳間書店 (Amazon/bk1)

 大魔法使いクレストマンシー・シリーズの(今回の邦訳では)2冊目。この世界と別の世界を「行ったり来たり」するタイプのファンタジー。といっても、「この世界」自体、私たちの世界とは、魔法が学校で教えられている辺り、既に違っている。

 ストレートに面白い本。同シリーズの「魔女と暮らせば」と似ているという話も聞くが、そちらはあいにく未読なので、既読の中では一番エンターテインメントな物語ではないかと。映画化されてもおかしくない、展開のメリハリと爽快なラスト。面白い本を読みたいと思っている少年少女が知り合いにいたら、プレゼントに最適の一冊。(本=プレゼント、と考える時点で、既にジョーンズの世界に染まっている)

 ところで、帯にもC.S.ルイスの「魔術師のおい」に捧げる、とか書いてあるし、連想させるところはあるので、「魔術師のおい」も再読。

 確かに、設定、ストーリーで共通する要素は有るのだけど、これを同じだと言い出したら皆同じ様な。例えば、高橋留美子の「らんま1/2」の娘溺泉なんか、「魔術師のおい」の、世界のあいだの池の描写にそっくりだ… とは誰も思わないか。そうそう、ルイスはキリスト教的な価値観から、絶対悪を登場させているけれど、「クリストファー…」での善悪は、それほど絶対的なものではないというのが、大きな違いかも。

 (補足) 作者が、「魔術師のおい」を意識して書いたこと自体は間違いないかと。amazon.com上の「The Magic of Narnia」でも、「魔術師のおい」はmy favoriteだと述べているくらいだし。ただ、オマージュであるにせよ、完全に新たな創造、と呼んで構わない出来なので、余り意識しないでも良いのでは、という話です。(2001.10.29) ★★★★☆

 

 「魔女と暮らせば  徳間書店 (Amazon/bk1)

 本屋でカバーを掛けて貰わなかったため、表紙裏の、全面ネタばれという、相変わらず犯罪的な説明書きがページをめくる度に気になって仕方ない。やむを得ず、表紙を外して読む。

 古くからのジョーンズのファンには思い入れの深い一冊、らしい。私としても、割と期待して読んだのだが… う〜ん、ちょっと物足りない。一冊の完成度としては「クリストファーの魔法の旅」の方が遥かに高いと思うのだけど。登場人物も、グウェンドリンお姉ちゃんだけは、物凄くキャラが立っているけど(というか立ちすぎだ)、他の人は今ひとつ、平凡な気がするし。

 クレストマンシー・シリーズはこの作品から、というのが古くからのファンの定説のようだけど、私は出来の良い「クリストファー」からの方がお奨めだな。まぁ、順番はともかくどれか一冊を選ぶのなら、「クリストファー」かと。勿論、全部を読むに越したことはないのだけど。(2001.12.22) ★★★★

 

 2002年

 「トニーノの歌う魔法 徳間書店 (Amazon/bk1)

 クレストマンシー・シリーズの一冊。今度の舞台は、(パラレルワールドの)イタリアの小国カプローナ。長年仲が悪い、「呪文作り」の名家モンターナ家とペトロッキ家。両家の少年少女達が、騒動に巻き込まれ、そして活躍する物語。

 エンターテインメントのツボをよく押さえた、軽快に読み進めることが出来る上質の作品。ただし、全体にあっさりしていて、ジョーンズ作品としてはやや物足りない気がしないでもない。(2002.4.1) ★★★☆

 

 「ダークホルムの闇の君  創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 とある異世界での魔術師一家の物語。とはいえ、D.W.ジョーンズ。普通の異世界ファンタジーであるわけがない。その世界の住人は、別世界(私達の世界?)から訪ねてくる「観光客」に「冒険の旅」を与えないといけないという契約を結ばされていて、その履行に四苦八苦していた、という奇抜な設定が、今回の物語の出発点。

 いつもながら自己主張の強い登場人物達が、それぞれ自分達の(広い意味では世界の)危機を救うべく騒然と動き回るので、読者の方は付いていくのに精一杯というか、一人一人をもう少し丁寧に追い掛けてよ、とか思わないでもないのだが、ラスト、嘘のように綺麗に着地する辺りの手際の良さは、さすがに貫禄か。

 メタフィクション的な設定の中で、例えば「指輪物語」のネタが、思わずニヤリとするような形で仕込まれていたりと(それにしてもドワーフの名前があれというのは…)、有る意味、作品全体が壮大な冗談のような感もあるのだが、魔術師一家の子供達(ひと2人と5グリフィン)の兄弟間の友愛が気持ちよく描かれているので、生き生きとした物語となっている。ジョーンズらしい作品として、充分楽しめた。(2002.11.17) ★★★☆

(続編「グリフィンの年」読了後の再読)

 世界設定的には皮肉が効いていて、かなり面白いけど、正直言って、読み辛い作品ではあるのを再確認した。感情移入する対象が父親魔術師ダークと、息子のブレイドに分離して、どっちつかずになってしまっているのが難点。ここはブレイド視点を中心にすべきだったと思う。あと解決編が怒濤の如くな展開で読者が付いていけない辺りも問題。

 作者は設定を考える時点で満足してしまって、書く時点では既に面倒になっていたのでは?という気がしないでもない。ダーク以下、魅力的なキャラクターが多いので、もう少し丁寧に書いて欲しかったのだけど。(2003.9.11)

 

 2003年

 魔法がいっぱい  徳間書店 (Amazon/bk1)

 大魔法使いクレストマンシーの世界を舞台にした短編集。イントロダクションというよりは、あくまでもファンサービス、というノリなので、D.W.ジョーンズの次の邦訳は?と飢えている人のためのものかと。ちなみに、そうやっていつも飢えている私は、昨年、本書のペーパーバックを丸善で衝動買いしておきながら、本棚に入れたままで、この邦訳が出てしまったのだった。

 いや、まぁ、読めれば良いんですよ、読めれば。この際、ジブリの魔法?で、もっと邦訳が出ることを祈ることにしよう(←自分で原書を読むのは諦めたらしい)。

  この中では「キャロル・オニールの百番目の夢」が特に素晴らしい出来。ちなみに、山田章博「紅色魔術探偵団」の第三話「幻視界魔術博士」を連想してしまったのは私だけですか?(2003.5.9)  ★★★☆

 

 「グリフィンの年  創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 「ダークホルム」世界の続編。最初からバタバタと騒動が続くので、その内、どこかで緩急の強弱を付けるだろう、と思っていると、驚くことに最後までそのまま行ってしまう。いや、D.W.ジョーンズの世界に慣れ親しんでいると、実際にはそれ位ではもはや驚かないのだけど。

 むしろ、驚くのは、キャンパスライフ物の設定を借りた何か(前作で異世界を舞台にしつつ、近年のRPGに対する揶揄や冗談が強く含まれていたように)かと思っていたら、真っ当な?キャンパスライフ物だったこと。分量的にもちょうど良いし、D.W.ジョーンズの小説の中でも一番読みやすい作品の一つ。(表面的には)劣等生だった仲間が協力してお互いの危機を解決していくという、まるでマイケル・リッチーの映画のような展開が楽しい。

 それにしても、今どき、こういう作品を書いたのは、「魔法が出てくる小説を書かせたら第一人者」のプライドとして、「魔法学校を舞台にした小説」は本当はどう有るべきか見せてあげます、ということだったのだろうか、やはり…

 ちなみに、「グリフィンの年」は、いずれ前作を読む気がある人以外(前作のネタバレにはなっているので)であれば、前作が未読でも特段、問題はないです。(2003.9.11) ★★★★

 

 「マライアおばさん  徳間書店 (Amazon/bk1)

 ここのところ、(中身はともかく)口当たりは割とソフトなダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品が続いていただけに、この作品の序盤の嫌な感じには、結構、パンチを食らった。この辺の容赦の無さが、さすが?ジョーンズだとは思うが、こういうのを小さい頃読むと、ある種のトラウマにならないか心配 。

 もっとも、読み続けるのが辛くなってきた辺りで話が一旦動き始めてからは、止めようにも止まらないジェットコースター(途中で宙返り有り)的エンターテインメントとなるのも、ジョーンズならでは。主人公の女の子 による日記という形式を上手く使っているのには感心してしまう。

 徳間書店の既刊より、むしろ創元文庫の「わたしが幽霊だった頃」や「九年目の魔法」に近い感じで、非常に好みの世界。そうそう、こういう作品を彼女には期待しているのですよ。(2003.11.29) ★★★★☆

 

 「いたずらロバート  ブッキング (Amazon/bk1)

 ジョーンズ作品がまだ数作しか翻訳されていなかった昔(といってもほんの数年前)、貴重な翻訳、かつ既に絶版ということで、いずれ入手せねば、と思っていた本の復刊。

 物語的には、すごくシンプル。今のジョーンズなら物語の中に、あと5,6個はトラブルの種をばらまいてみせるところ?

 例えば、本編のロバートは、この前の「マライアおばさん」の某人物を連想させるのだが、 「いたずらロバート」ではその話が全てなのに対し、「マライアおばさん」では、多くの設定の一つでしかない。つまり「いたずらロバート」を今風に「書き直した」のが、「マライアおばさん」だと言えなくもないわけで、今まで余り意識することのない、作者のテクニックが時代と共に上達したこと、を実感させるという点でも興味深い一冊。

 ただし、シンプルながらも「ジョーンズらしい」面白さは勿論、持っているのだけど、お薦めかというと優先順位は正直言って低め。これだけジョーンズの圧倒的に面白い作品が溢れている時代だと特に。小学生が学校の図書室で何気なく読み、後年、他のジョーンズ作品を読んだ際に、似たような本を前に読んだことあったような?と思い出す、というのが一番正しいこの本の読まれ方かも。(2003.12.30) ★★☆

 

 「七人の魔法使い  徳間書店 (Amazon/bk1)

 作者自身が、書いている内に(自分でも思っていなかった)その展開にわくわくしたというだけあって、前半からは予想も付かない物語後半の飛び跳ね方が楽しい。

 ラストでの、「悪」という燃えないゴミ?の捨て方は、有る意味、無責任すぎるような気がしないでもないけど。ディケンズの時代に、問題は全て移民で解決、とかやっていたのと余り変わらないような… まぁ、日本でも手塚治虫先生が、イルカに乗った少年の漫画のラストで全く同じことをやっていたりしますが。

 ともあれ、これって、アニメにすると凄い面白いような… いや、違った。「アニメっぽい実写」が一番向いていると思う。ティム・バートン…だとジョーンズの世界にはウエット過ぎるので、もう少しカラッとした感じで。撮影監督のビットリオ・ストラーロが無駄に懲りすぎた映画「ディック・トレーシー」みたいな画面で、アニメっぽい動きを俳優にさせると絶対はまる筈。

 などと思いながら読み終えて、訳者あとがきをみたら、既にBBCでTVドラマ化されているらしい。なるほど、映像化したいと思うのは皆、同じか。でもTVドラマだと、原作本来の「すさまじさ」?が充分に再現出来ないと思うので、ここは是非、映画で誰かやってみて貰えないものかと。他の作品でも良いので。

 スタジオ・ジブリがあるじゃないか? あれは100%「宮崎的ハウル」なんだろうから、ジョーンズらしさという点では微塵も期待していないのです。

 いや、でもそのお陰で、徳間書店から、(この作品を含む)空前のジョーンズ作品ラッシュ、いうなれば「ジブリ・バブル」が巻き起こっているのも確か。だから、大感謝してます、ええ。いっそ、あと1年くらい映画の制作が遅れてくれないものかと。そうすれば、もっともっと翻訳作品が増えそうなので(^^;; (2003.12.30) ★★★★

 

 2004年

 「時の町の伝説  徳間書店 (Amazon/bk1)

 小説としては、今年初めてのD.W.ジョーンズの邦訳作品。ということで、楽しみにしていたのだけど。う〜ん、ジョーンズとしては珍しく、出来が今二つ位冴えない…

 全ての歴史から離れた街があって、歴史の安定性を監視している、といった設定自体は面白いのだけど、その街の住人が危機に瀕したところで、そんな高みの見物を決め込んでいる連中なんかどうだって良いじゃんか、と醒めたまま読んでしまった。

 ジョーンズはある種の設定マニアというか、世界設定を構築するのに夢中になる一方、ともすればそれが目的と化してしまう傾向があると前から思っているのだけど、それが悪い意味で強く出てしまっているタイプの作品。人の生き死に含め、他の「世界」を平気で操作する「時の町」の住人と、作者ジョーンズが、だぶって見えてしまう。 まさか、自己の作風に対するセルフパロディ?

 もっとも、真の問題は、この作品の場合、他の作品だと初期設定に血を通わせる「家族の助け合い」の楽しさ、特に「兄弟(姉妹)間の友情」という要素がごく薄いことにあるんだろうけど。

 せっかく第二次戦争開戦直後の英国で、疎開してきた少女が田舎の駅に降り立った途端、別の世界に連れ去られる、という魅力的な始まり方をしながら、それが活かされていないのももどかしい。というか、物語が(「時を駆ける」ファンタジーの構造としては)明らかに間違った終わり方を 迎えるのは、戦時中、小さな子供だった作者の当時の強い思いが発端にあるから、と想像すべきなのだろうか。こんな恐い世界からは一刻も早くいなくなってしまいたい、といったような。

 そういった意味では、興味深い作品だけど、邦訳されている中では一番お薦めする気にはなれない一冊。

 ちなみに、子供の頃、もしこの本に出会っても、恐らく「バターパイの話」としか覚えてないのではないかと。私の昔の記憶は、「ナルニア国物語」→ライスプディング、とか言 う風に、「何の料理が出てきた話」というレベルなので。まるで「ドリトル先生」の豚のガブガブ並だ(「ドリトル先生」シリーズ の記憶→豚と会話する一方、朝食用にソーセージを平気で炒める小説)。(2004.8.17) ★★

 

 「呪われた首輪の物語  徳間書店 (Amazon/bk1)

 「時の町の伝説」に続き、徳間書店から出た作品。こちらはジョーンズ作品の中でも、普通に面白い作品だったので、満足。

 「呪われた首輪の物語」などと仰々しいタイトル(といっても、原題は「POWER OF THREE」と至ってシンプル)、壮大な物語が始まるかのような書き出しなのに、終わってみれば、割とこぢんまりとした話だったのが、妙におかしい。まぁ、それも含めて、常識と思っている価値観が(他者によって)相対化される様が、この作品の面白さなんだけど。

 出来の良い姉や弟に挟まれて自分の存在意義をくよくよ悩む、ファンタジーらしからぬ主人公が、いかにもジョーンズらしい。他にも魅力的な、活き活きとしたキャラクターが沢山出てくるだけに、もう少し詳しく語ってくれても良いのでは、と思うものの、幾らでも伸ばせそうな話を、この分量でさらっと綺麗に終わらせるのが、彼女の信条なのかも。

 途中で明らかになる驚きの設定は、日本人の読者なら佐藤さとるを連想したくなるところだけど、実際にはメアリー・ノートン辺りが当然、意識されているのだろうな。(2004.8.18) ★★★☆

 

 「花の魔法、白のドラゴン  徳間書店 (Amazon/bk1)

 国を安泰に保っている魔法の力を守るため、王とその廷臣が年中、「巡り旅」をしているイングランド、という初期設定は凄く面白い、と思ったんだけど。…本筋とは余り関係なかった(^^;;

 多次元世界もので(いつものことだが)、「悪い魔女」という悪の種がその地に撒かれて、一組の少年少女がその収拾に追われる…とくれば、勿論、C.S.ルイスの「魔術師のおい」。あの作品がダイアナ・ウィン・ジョーンズに与えた影響は本当に大きかったんだな、と改めて実感させられる。

 その分、今回の内容は既読感が強くて新鮮味に欠ける、というのが正直な感想かも。「魔術のおい」へのオマージュなら、これまでもクレストマンシーとかで散々やってるわけだし。

 最新作だけあって、全体の進行は手慣れたものだが、(今までのジョーンズ作品を思えば)手堅くまとめ過ぎ、という印象で終わってしまったのは残念。ただし、一つ不幸だと思うのは、翻訳元の都合でシリーズの2作目だけを読まされたこと。この世界の2作目として読むことが出来ればもっと面白かったような気がする。(2004.12.7) ★★★☆

 

 「星空から来た犬  早川書房 (Amazon/bk1)

 初期作品だけあって、展開はシンプルだが、全体を通じて「純粋な憤り」とでも言うべき物語のトーンが非常に新鮮。

 決して慌てることなく巧みに物語を操る現在のD.W.ジョーンズとは大きく違い、息を切らせんばかりに夢中になって語っている、という印象だが、そういう時期にしか書けない作品ならではの魅力というか。特にラストの切なさは、その後の作品には見られないものだけに、強く印象に残る。

 こういう初期の佳作が翻訳されたことが、今回のジブリ・バブルの最大の成果かと。(2004.12.8) ★★★★

 

 「バウンダーズ “この世で最も邪悪なゲーム”  PHP研究所 (Amazon/bk1)

  舞台となる世界全体が「ゲームの規則」で動かされている、というメタフィクション的構造は、「ダークホルム」同様だが、この作品の場合、思い付きが先行して細部が雑という印象を特に受けてしまうのは、1981年の刊行という初期作品だからだろうか。あるいは単に、翻訳上の問題?

 アイデア自体は面白いだけに、何だか凄く勿体ない、という気がするのだけど。

 ダイアナ作品では珍しい「主人公の孤独」について、アメリカの作家ならもっと上手く書くのに、という気がしてしまうのも残念な点。例えば、ロバート・コーミアなら、終盤は息が詰まる位、逃げ場のない痛さでもってそれを描写出来た筈。

 あと、単発の出版社が派手なコピーで宣伝するのは当然とはいえ、この作品に『「ハウルの城」の原作者が描く最高傑作!』という帯の言葉を決めた人間は良心が咎めなかったのか、と言いた くなる。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品は全て面白いと思っている私でさえ、感想を書く際に「傑作」という言葉はまだ1回しか使ってないというのに、「最高傑作」ですって?

 そんなこんなで、(決して嫌いでは無いのだけど)不幸な印象の方が強くなってしまった作品。

 ちなみに、世界全体が「ゲームの規則」で動かされているというファンタジーは、遡れば「不思議の国」「鏡の国」の両アリスに行き着くわけで、そういう意味では、彼女はファンタジーというジャンルにおいていわば王道を歩んでいる作家なのだと思う。(2004.12.11) ★★☆

 

 「魔空の森 ヘックスウッド  小学館 (Amazon/bk1)

 本のサイズといい、文字といい、無駄にでかい、という印象で損しているような。イラストを含め、表紙のセンスは良いんだけど。

 宇宙の秩序を管理する組織に、辺境の地球の管理官から、何かトラブルが発生したとの報告が届いた、という二昔前のSF?ドラマのような書き出しに、正直言って、余り期待せずに読み始めたのだが、後半、どかんと衝撃が! これこそが、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の醍醐味ですよ。

 何と言っても、主人公の女の子が中に入る度に違う時間が流れている「森」という設定が素晴らしい。繰り返し言及するのは(馬鹿の一つ覚えみたいで)気恥ずかしいが、またしても「不思議の国のアリス」をつい連想してしまう。小説の中でアリスが通り抜けた森、そこにいる間、彼女が名前を失っていたあの森を。

 「バウンダーズ」と同じ月に邦訳が出た作品だが、こちらの帯には、『「ハウルの動く」原作者の代表作』とのコピー。こういうところに出版社の格(余裕?)の違いが出ますよね。少なくとも、この作品は「代表作」と呼ぶのに相応しい、と私も思います。(2004.12.12) ★★★★☆

 

 「ダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジーランド観光ガイド  東洋書林 (Amazon/bk1)

  昨年の今頃に出た本で、今年の初めには読んでいたのだが、…そういえば、感想を書くのを忘れてた。

 『本書は、ファンタジー小説を「観光パンフレット」、その作家を「ファンタジーランド旅行公社」、読者をこの旅行社のツアーに申し込んだ「ツーリスト」にみたてた<観光ガイド>です』(帯の紹介)。

 というわけで、ファンタジー小説、それも「指輪物語」の亜流ファンタジー世界のワンパターン振りを、とびっきりの皮肉を込めて紹介するジョーンズ版「紋切り型辞典」。この場合、「紋切り型」なのは定義の仕方じゃなくて、対象の方ですが。

 実は私、その手のファンタジーには余り興味も愛着も無いので、良き読者とはとても言えないのだけど、それでもあちこちで吹き出してしまった。この作家の観察眼の鋭さと、辛辣なユーモア感覚を理解するには最高の一冊かと。

 ちなみに、「ダークホルムの闇の君」は、この「観光ガイド」を理論編とすると、いわば実践編として、異世界からの「ツーリスト」を受け入れるファンタジー世界を舞台にしてファンタジーを書いてしまった、極めてアクロバティックな創作だったことがよく分かる。どうりで、妙に不自然な世界設定と物語展開だと思った。あれは、わざとだったのか…

 先にこちらを読んでいれば、「ダークホルム」を読んだ時に、そこまでやるとはジョーンズ恐るべし!と拍手喝采だったと思う。(2004.12.13) ★★★☆

 

 「詩人たちの旅  創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 封建的な支配体制下の南部諸州の街々を馬車で旅する吟遊詩人の一家。旅客として一人の少年を乗せたことをきっかけに、一家の運命は大きく変わっていく…というダイアナ・ウィン・ジョーンズ描くところの「旅芸人の記録」。

 1975年という初期作品にも関わらず(そういえば、テオ・アンゲロプロスの映画も1975年!)、ジョーンズ世界の特色である兄弟(姉弟)関係が既にメインになっていたのにはニヤリ。でも内容的には割と普通(かつ地味)で、ようやくこの世界に馴染み掛けてきたところなのに、もう終わり?的な物足りなさも。

 というか、それまで地に足の付いた物語展開だっただけに、この巻のクライマックスには、え?この世界ではそういうのも有りだったの? とやや付いていけず。全般に「現実」志向だけど、ところにより一時、魔法、という感じ?

 キャラクターの中では、途中退場してしまう「父さん」が割と美味しい役どころ。オメロ・アントヌッティ辺りの名優が演じるとぴったりかも。(2004.12.26) ★★★☆

 

 「聖なる島々へ  創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 南部でも特に厳しい領主ハッドが治めるホーランド。行方不明となった父の意思を継ぎ、幼くして革命運動に身を投じた少年ミットは、海祭りの日に手製の爆弾でハッド暗殺を企てる。一方、ハッドの孫娘ヒルディと弟イネンは、政略結婚の具としか思われていないその窮屈な生活にうんざりしていた…

 日本で流行中の「外国ファンタジー」の柔なイメージとは対極の冷徹な世界観。ダイアナ・ウィン・ジョーンズの中でも最右翼と言って良いかも。いや、だって、抑圧的な体制に抵抗し爆弾テロを企む地下組織って…「人狼」ですか? そして、そんなテロ計画では上手く行くわけがないところまで的確に描写する容赦のなさ。凄いわ、これ。

 しかも、後半はミットとヒルディ達、それぞれの物語が邂逅して、波乱に満ちた冒険の船旅が始まる。といいつつ、帆船の中にトイレ用のバケツが置いてある辺りのリアリズムが素晴らしい。階級闘争と少年少女の冒険と大海原。この作品こそ、若い頃の宮崎駿と高畑勲に作って欲しかったです よ。まぁ、作品自体にはロマンス風味は皆無なんですが、その辺は適当に足して良いから。

 ただし、リアリズム冒険小説として面白かっただけに、最後の解決編はいかにも物足りない。デウス・エクス・マキナというか、ご都合主義的に見えて。非力な少年少女だけで何も解決出来るわけがない、というのも 正しい現実認識だとは思うものの。

 キャラクター的には(イネンのように「やや気弱だけど、知的で冷静な」弟というジョーンズお馴染みのキャラクターも良いのだけど)、何と言っても、武器職人のホービンが渋いオヤジで良い。この辺の 「大人の」人物描写が物語を支えていると思う。(2004.12.26) ★★★★☆

 

 「呪文の織り手  創元推理文庫 (Amazon/bk1)

 時代は遡って。故郷を追われて、川を下る兄弟姉妹。というわけで、このシリーズの物語はこの巻まで全て逃避行。勿論、わざとなんだろうけど、今回は逃げる一方なので、前半はテンションが一向に上がらず、正直、 余り面白いとは思えなかった。

 しかし、後半は、がぜんと盛り上がる。川の少女といえば、 何と言っても、イアン・ワトスンの「川の書」だが、あれに匹敵する位のメタフィクション的衝撃が待ち受けている。まさにメタ・テクスト。

 そして、ここに来て初めて、前2冊ではご都合主義的解決のお題目にしか見えなかった彼等が、シリーズを貫く一つの物語として浮かび上がってくる。この強靱な想像力と構成力こそ、D.W.ジョーンズ !

 これまでの登場人物が一同に会するというシリーズ最終作の翻訳(来年)が、待ち遠しい。

 ちなみに、全然キャッチーじゃないなぁ、と印象が「最悪」に近かった各巻の表紙も、ここまで読むと、なるほどそうなのか、と思わせられるものが。でも、ちゃんと「売る」ためには、もう少し違う選択が有っただろうに。この表紙では、元々のファンしか手に取らないと思う…(2004.12.26) ★★★★

 


 「時の彼方の王冠  創元推理文庫 (Amazon/ bk1)

 詳細な感想は後日。(とりあえず、読後のメモ↓)

 なるほど、前3作を統合する作品で、前3作の主人公も揃い踏みだ、って今までとは随分雰囲気が違うのは、書かれた年代が違うからか。 前の一歩引いた感じの文章も結構好きだったんだけど。

 単体の作品では決して味わえない重層的な面白さを堪能。絶対、前3作をもう一度読まないと。こうなると知っていたら、それぞれの作品の印象は全く違ってくる筈なので。★★★★☆


その他短編等

 「魔法使いになる14の方法  創元推理文庫 (Amazon/bk1)

魔法使いに関するアンソロジー。著者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ他、という割に、ジョーンズ作品は、既刊「魔法がいっぱい」の「キャロル・オニールの百番目の夢」だけなので、 彼女の作品を求めるだけなら(翻訳を比較してみるつもりでもない限り)敢えて買う必要はないかと。


 「ミステリーズ! vol.07  東京創元社 (Amazon/bk1)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの短編「リトル・ドット」を掲載。一言で言えば、「猫がいっぱい」。★★★



home/diary/myself