「魔笛」の感想  2005.1.30

DVDを中心に、最近見たもの。

 

 DVD

 「モーツァルト:歌劇《魔笛》(期間限定生産)  ユニヴァーサルクラシック (Amazon)

モーツァルト:歌劇《魔笛》(期間限定生産)

 何かに似ていると思ったら、あれだ。「正月のバラエティ番組」の緩さ。 軽いコントに、ちょっとした手品とか。「仮装大賞」的な場面もあるし。NYの人は笑いに飢えているのか、観客にえらく受けているのも正月的。 いや、「穴があったら入りたい」には、私も笑いましたが。

 演出的には、オーソドックスなお伽噺系。対象年齢:小学校高学年〜中学1年生という感じ。ホックニーの美術も、中学校の体育館で演劇部が演じる芝居の背景(生徒が描いた)みたいな単純さだし。

 モノスタスが全然黒人(ムーア人)ぽくないのは、やはり現在のアメリカ社会におけるタブーという奴? それを言い出したら、この作品での女性蔑視はフェミニストから袋叩きに遭いそうな内容だと思うんだけど…

 レヴァインの指揮は、軽薄と言って良いほどに軽い調子だけど、何も考えず、ぼーっと見るには良いかも。★★★

 

 「モーツァルト 歌劇《魔笛》全曲   TDKコア/キングレコード (Amazon)

モーツァルト 歌劇《魔笛》全曲

 こちらは、 作品の時代背景を真面目に考察してみました、という今風の演出。夜の女王をアンシャン・レジームのマリア・テレジア、ザラストロとその一員を新興知的市民層のイメージで描き、その対立構造として作品を捉える。地方の公立高校の2,3年生辺りが考えそうな感じ。

 冒頭の大蛇がお馴染みの着ぐるみじゃなくて、蛇を体に巻き付けたトップレスのお姉さんとして登場させる辺りも、高校生が思い描くところの(危険な)新たな世界への誘いのイメージという感じで。

 もっとも、真の主役は、そのいずれにも属さない「庶民」のパパゲーノ 。タミーノ(知的市民層)から見たら粗野だが、常識を持ち合わせ、純真無垢(=馬鹿)ではないのがポイント。舞台上で本当にがつがつ飲み食いしながら歌う(途中、飲んで呂律が回らなくなってくるところまで演じてみせる!)シャリンガーの演技が凄い。

 あと、3人の侍女、3人の童子共に、1人だけ太っているとか、変化を付けているキャスティングが面白い。

 全体的には、フランツ・ヴェルザー=メストの指揮を含めて、爽やかにまとまっているという印象。

 基本的にはこういう、きちんと考えた演出は好きなので、実際に見たら、すごくワクワクすると思うけど、ただし、「魔笛」の良さは逆に、メットの公演のような「何も考えない」美しさにあるかも、と思わないでもない。★★★☆

 

 「モーツァルト:魔笛 全2幕  ニホンモニター/ドリームライフコーポレーション (Amazon)

モーツァルト:歌劇《魔笛》(期間限定生産)

 う〜ん、この時代までのオーソドックスな舞台なんだろうとは思うけど、音質も映像もさすがに悪い。映像は昔のビデオで3倍モードで撮った時のTV番組みたいだし。音質もそれに見合う程度。私のようにヘッドフォンで聴いているとちょっと辛いものが。

 ライブでなく編集版なのもマイナス。あと出演者が皆、厚化粧なので、アップになる度にぎょっとしてしまう。

 ただ、このモノストスは、これぞモノストスでしょ!という見事な?ムーア人振り。ドーランを真っ黒に塗った丸い顔。ぎょろっとした丸い目がくりくり動く (ちょっと可愛い)。かつてのカルピスとか、いわゆるステレオタイプなムーア人(黒人)のイメージなんだけど、そうでないと「黒いだけで恋しちゃいけないのか。白い肌の子に惚れちまった 。お月さん、おいらを隠してくれ」と歌うモノストスの屈折した恋心が伝わらないわけで。★★

 

 「ベルイマン/魔笛   紀伊國屋書店 (Amazon)

モーツァルト 歌劇《魔笛》全曲

  大昔、関西にいた頃、TV放映されたものを録ったビデオを発掘してきた。うわっ、CM抜きまでしてるよ。リアルタイムのCM抜き(画面が切り替わる瞬間を見計らってポーズボタンを押す)なんて今の若い者に言っても、誰も信じてくれないだろうな…

 客席の1人の少女の表情を繰り返し描くことで、客席から見た舞台として印象付けようとしているが、アングル・編集等、実際には映像作品としての構成。ちなみに、枠構造(少女の表情)の多用は今見ると、ちょっとくどいかも。

 3人の侍女が美人。タミーノならずとも、彼女たちが悪の一派だとは普通、思わないところだ。3人の童子は普通の子供達という感じだが、乗ってくる気球の細部が、スチームパンクの冒険小説みたい なアナクロさで素敵。

 歌詞はスウェーデン語だが、アリアによっては、舞台上に歌詞の書かれた板を出すのが妙におかしい。

 このベルイマン演出の白眉は、絶望するパミーナを降りしきる雪の中に立たせる場面。というか、もはや、舞台上じゃ全然無いんですが(^^;; 続くパパゲーノとパパゲーナがお互いの厚着を脱がせる場面も楽しい。スウェーデンでのハッピーエンドのイメージは「冬が春になる」ということ? この作品の印象が強過ぎて、「魔笛」を長らく雪解けの話だとばかり思い込んでいた私。

 そんなわけで一見の価値は充分あると思うが、これが定番かというと、ちょっと違う話になっているような…

 ちなみに、古いビデオしか見たことがないので正否は不明だが、DVDについては音の高さ等、批判的な意見もあるようなので、一応注意。★★★

 

 TV

 「ロイヤル・オペラハウス公演 歌劇「魔笛」  BS-hiにて →輸入盤(Amazon) ※リージョン1

モーツァルト 歌劇《魔笛》全曲

 何と言っても、夜の女王の髪型&隈取りのインパクトが強烈! …ただ、それを除けば、意外と普通かも。

 コリン・デーヴィスの指揮はややスローテンポだが、堂々として慌てないという感じで中低音をよく響かせている。

 演出的には普通。よく言えば伝統を守っている、悪く言えば何を示しているのか深く考えていない演出。メットとチューリヒの中間というか中庸ではあるのだけど、個人的には中途半端という印象で余り魅力を感じず。

 でも、まぁ、この夜の女王を見られたから良いや。★★☆

 

 CD

 「モーツァルト:魔笛 ユニヴァーサルクラシック (Amazon)

モーツァルト:魔笛

 完璧な「魔笛」というのがもしあるとするなら、それに極めて近いと思わせる名演。 このハイライト版だけも充分、満足だが、全曲版を聴けば、もっと素晴らしいに違いない。

 出演者の誰もが良いのだけど、やはりドイテコムの夜の女王は有名なだけあって、完璧。正確にかつ軽々とアリアをこなしていく様は、凄いの一言。

 こういうのを聴いてしまうと、他の人が演じる夜の女王には、どうしても不満が残ってしまうのが逆に困るところ?★★★★☆

 

 公演

 「魔笛   プラハ国立歌劇場ニューイヤーオペラ2005 2005.1.8 神奈川県民ホール

モーツァルト 歌劇《魔笛》全曲

 キャスト的には地方公演ということで、(多分)サブのメンバーだと思うけど、アンサンブルはそんなに悪くなかった(と思う)。

 夜の女王はジャニーヌ・テームスではなくて、ダグマル・ヴァニュカートヴァーという人だったが、却って良かったかも。無難ながら、それなりに歌いこなしていたという印象だったので。

 他のキャストについては良くも悪くも余り印象が無かったけど(あえていえば、初々しくないタミーノ&パミーノよりはパパゲーノ&パパゲーナのコンビの方が良かったような。特に子沢山の辺り)、ザラストロのミラン・ビュルガーだけは酷く気になった。体調が悪かったのだろうか、と疑問に思う位、声が出ていなかった。

 演奏のテンポは割と早めで、悩まずサクサク進む、という感じ。休憩を除くと全体で2時間半も掛からない位。

 演出もごく普通で、凄いと思うところも特になかった反面、旋律の楽しさに浸ることを妨げられる部分もなく、普通に楽しめたという印象。

 グロッケンシュピールが、巨大な祭具みたいで、舞台上に置きっぱなし(幕が開く前、童子達がまず置きにきた)で必要な時だけ持つ、というのはどうかと思ったけど。あれはやはり、携帯用サイズにすべきじゃないの ? 

 


home/diary/myself