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Comics review


2.「ヤマタイカ」 6/29

星野之宣 Comics 初出「コミックトム」86年11月号〜 571円×5冊(4、5巻は7月発売) 潮出版ビジュアル文庫

壮大な物語とそれを裏付ける迫真の描写で知られる星野之宣の傑作の数々の中でも「2001夜物語」と並んで正に代表作と呼ぶに相応しい伝奇SF。

その壮大にしてミステリアスなドラマは沖縄で幕を開け、「火の民族仮説」をたぐりながら火の国・阿蘇へと─。
邪馬台国の巫女王・卑弥呼が、「奪われし歴史」を語りかけてくる! …(文庫版1巻裏表紙)

 

 面白い作品に出会うことはままある。しかし、読んでいて胸が熱くなる作品に出会えることはそうあることではない。そして、その希有な作品の一つが、この「ヤマタイカ」である。勿論、発表したときから10年以上経った今では、様々なことが変わってしまっている。冒頭の台風の気圧はミリバールからヘクトパスカルへ。在日米軍の扱いを初めとした政治情勢の変化。邪馬台国の場所も近畿説が有力になっているようだ。しかしながら、この作品の本質が「われわれはどこから来たのか。われわれは何者か。」という問いとそれへの力強い答えである以上、この作品はいつになっても価値を失わないに違いない。

 星野之宣はいつも真面目な顔をして大嘘を付くという作家なのだが、この作品での仕掛けの緻密さは門外漢には真実そのものとしか思えないほどで、それに続く(他の作家が書いたら相手にされないような)荒唐無稽な展開にもつい付いていってしまう。そう、こんなにも真面目な日本人論を背景に何と「宇宙戦艦ヤマト」のリメークを堂々とやっている(と書くと語弊がある?) 日本のマンガが神様のお陰で手にしたマンガ的想像力の最大の活用例がここにある。

 今さらいうまでもないが、この作品は「ヤマトの火」という未完の作品のリメークである。当然ながら「ヤマトの火」は未完ながら充分面白い作品なのだが、「ヤマタイカ」を読んでみるとその出来が歴然として向上している。これだけ上手い作家の構成のリメークを知る機会は滅多にないので、読んだことのない方は合わせてお奨めしておきたい。

 

 あの作品が文庫になった!というわけで、私の今まで読んだ中で『最も面白かったマンガBest10』に入る「ヤマタイカ」について、取り上げてみたのですが、…ちっともその面白さが伝わってきませんね。反省してます。何せ、私は、卒業前の旅行の途中の経路に日向→高千穂→阿蘇を組み込んだ位、この作品にははまったので。とりあえず、オモイカネと聞いて「ナデシコ」しか思い浮かばない方は一度読んでみて下さい、ていうか読め、と声を大にして言っておきたいです。


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