Scene 43 『秘密の花園』  〜文芸映画も悪くない〜

 

 バーネットといえば「小公女」や「小公子」の方が有名だけど、「秘密の花園」の方がずっと良い。

 そう思っていただけでなく、小学校高学年のある時期に「今まで読んだ本のベスト5」を選んだら必ず入れたと思う位この小説は好きだった。それが映画化され、しかも割に評判が良いとなれば、原作がどうなっているか確かめなくてはと思ったのだが、改めて考えてみると、恐ろしい位に何も覚えていないのだ。

 勿論、題名になっている位だから「秘密の花園」を発見して何とかかんとかということは分かっている。主人公の女の子が初めインドに居てその後「花園」のあるイギリスに来てまともになるというか、しっかりと考えて行動出来る様になる下りも覚えているのだが(確か、インドは考えがまとまらない程暑かったのだが、イギリスは涼しくてとかいう説明があったのだ)、他には悲しい程何も思い出せない。

 というわけで、比較するどころか、殆ど初めて知る話として映画を見ることになったのだが、逆にそれが良かったのかも知れない。結構楽しめてしまったのである。

 成る程ね、典型的なヴィクトリア朝小説として、幾つもの興味深い要素を指摘出来る。人種差別と博愛主義(とその19世紀的限界)、インドを抱え込んだ大英帝国の国際性、ゴシックロマンス的舞台装置、イギリスの庭園とその思想の変遷、花粉恐怖症に見られる当時の室内崇拝の強烈さ、そしてユートピアとしての「花園」及び「健康」と「自然」の相関関係等々。

 しかし、そんなユリイカの特集のようなことをつらつら考える以前に古典とは面白いことが実証された物なのだから、「深い」とか何とか言う前に取り敢えず単純に面白いと言っておけば良いのだ。映画に関しては「メアリーを演じていた女の子がとても良かった」とでも言っておけば良い。さぁ、明日本屋に行って「秘密の花園」を買ってくることにしよう。勿論、出版社は福音館、それも古典童話シリーズの奴である。